小学校の児童が、体育の授業としてのサツカーの試合中に至近距離からけられたボールで眼部を直撃されたため、その一年余りのちに網膜はく離により失明した場合において、右児童が、事故当時一二歳であつて眼に異常があればそれを訴える能力を有し、事故直後から眼に異常を感じていたにもかかわらず、担当教師が再三尋ねても異常がないと答えたばかりでなく、外観上何らの異常も認められなかつたうえ、担当教師において右児童が異常を感じてもあえてこれを訴えないことを認識しうる事情もなかつたときは、担当教師には失明防止のため事故の状況等を保護者に通知してその対応措置を要請すべき義務があつたものとはいえない。
小学校の児童が体育の授業中の事故により後日失明した場合に担当教師には事故の状況等を保護者に通知してその対応措置を要請すべき義務はないとされた事例
国家賠償法1条1項,民法709条,民法715条
判旨
小学校の体育授業中の事故に関し、担当教師が保護者へ通知・要請すべき義務の有無は、事故の態様、予想される障害、児童の言動や年齢・判断能力等を総合して判断すべきである。本件のように外観上の異常がなく、12歳の児童自身が異常を否定している状況では、事後の通知義務は認められない。
問題の所在(論点)
学校事故が発生した際、外見上の異常や本人による被害の訴えがない場合に、担当教師が保護者に対して事故状況を通知・報告すべき注意義務(国家賠償法1条1項上の過失)を負うか。
規範
教師は学校教育活動から生じる危険から児童を保護すべき義務を負うが、事故後に障害防止のため保護者へ通知し対応を要請すべき義務の有無は、①事故の種類・態様、②予想される障害の種類・程度、③事故後の児童の行動・態度、④児童の年齢・判断能力等の諸事情を総合して判断する。
重要事実
小学6年生の児童が体育のサッカー中、至近距離から蹴られたボールが右眼を直撃した。担当教師が保健室へ行くよう促したが、児童は「大丈夫だ」と答え、その後も元気に授業に参加し、特段の異常を訴えなかった。しかし、実際には網膜剥離が生じており、サッカー選手になる夢を断たれることを恐れた児童が異常を秘匿したため、発見が遅れ視力が回復不能となった。
あてはめ
本件児童は12歳の小学6年生であり、異常を感じれば自ら訴える能力を有していた。事故直後の外観に異常はなく、教師の問いかけに対し児童自ら異常がないと言明していた。また、児童が将来の夢のために異常を隠していることを教師が認識し得る事情もなかった。このような状況下では、教師は児童が後に異常を訴えた際に保護者が措置を講じることを期待すれば足り、直ちに保護者へ通知すべき義務があったとはいえない。
結論
担当教師に保護者への通知義務違反(過失)は認められず、設置者である地方公共団体の損害賠償責任は否定される。
実務上の射程
学校事故における安全配慮義務・注意義務の具体化として活用できる。特に「本人に判断能力があるか」「外見や言動から重篤な結果が予見できたか」が分水嶺となる。本人が大丈夫と言っていても、低学年であったり、明らかに強い衝撃を受けている場合は、本判例の射程外として義務が肯定される余地があることに注意すべきである。
事件番号: 昭和56(オ)539 / 裁判年月日: 昭和58年2月18日 / 結論: 破棄差戻
町立中学校の生徒が、放課後、体育館において、課外のクラブ活動中の運動部員の練習の妨げとなる行為をしたとして同部員から顔面を殴打されたなど判示のような事情のもとで生じた喧嘩により左眼を失明した場合に、同部顧問の教諭が右クラブ活動に立ち会つていなかつたとしても、右事故の発生する危険性を具体的に予見することが可能であるような…