無断転貸を理由とする土地賃貸借契約の解除権の消滅時効は、転借人が転貸借契約に基づき当該土地の使用収益を開始した時から進行する。
無断転貸を理由とする土地賃貸借契約の解除権の消滅時効の起算点
民法166条1項,民法612条2項
判旨
賃貸土地の無断転貸を理由とする賃貸借契約の解除権は、債権に準ずる形成権として10年の消滅時効にかかり、その起算点は転借人が土地の使用収益を開始した時である。
問題の所在(論点)
無断転貸を理由とする賃貸借契約の解除権に消滅時効が適用されるか。また、適用される場合の起算点はいつか。
規範
賃貸土地の無断転貸を理由とする賃貸借契約の解除権(民法612条2項)は、賃借人の義務違反を原因として賃貸人の一方的意思表示により契約関係を終了させる形成権である。したがって、その消滅時効については債権に準ずるものとして旧民法167条1項(現行166条1項参照)が適用され、権利を行使することができる時から10年で消滅する。その起算点は、転借人が転貸借契約に基づき当該土地の使用収益を開始した時と解するのが相当である。
重要事実
土地賃借人であるFから権利を承継した被上告人B1は、昭和25年12月、賃貸人の承諾を得ることなく、土地上の建物を譲渡するとともに敷地である本件土地を被上告人B2に転貸した。B2は同日以降、土地の使用収益を継続した。賃貸人側の管理会社は、無断転貸から約25年が経過した昭和51年7月、B1に対し無断転貸を理由とする解除の意思表示を行った。これに対し、B1らは解除権の消滅時効を援用した。
あてはめ
本件解除権は形成権であり、債権に準じて10年の消滅時効にかかる。起算点について検討すると、被上告人B2が本件土地の転借人として使用収益を開始したのは昭和25年12月7日である。この時から賃貸人側は解除権を行使することが可能であったといえる。本件解除通知がなされたのは昭和51年であり、使用収益開始から10年が経過した昭和35年12月7日の経過をもって、解除権は時効により消滅したと評価される。
結論
無断転貸による解除権は時効消滅しており、昭和51年の解除の意思表示は効力を生じない。
実務上の射程
解除権のような形成権にも消滅時効の適用を認めた点に意義がある。答案上は、無断転貸後の長期間の放置がある事案で、時効の成否を論じる際に本判例の規範を用いる。特に「使用収益開始時」を起算点とする点は、継続的な義務違反状態であっても違反行為の始期を重視する判断として重要である。
事件番号: 昭和53(オ)1440 / 裁判年月日: 昭和55年12月11日 / 結論: 棄却
債借権の譲渡を承諾しない賃貸人は、無断譲渡を理由とする契約解除権が時効消滅した場合であつても、所有権に基づき、賃借権の無断譲受人に対し、賃貸借の目的物の明渡を求めることができる。
事件番号: 昭和41(オ)660 / 裁判年月日: 昭和41年12月1日 / 結論: 棄却
賃料の催告と右催告の趣旨不履行による賃貸借契約解除の意思表示との間に約一四年のへだたりがあつても、原審認定(原判決理由参照)のごとく、相手方においてもはや右催告に基づく解除権の行使はないものと信ずべき正当な事由が生じたとはいえない事情のもとでは、右意思表示のときまで右解除権は有効に存続していたと解することができる。
事件番号: 昭和39(オ)697 / 裁判年月日: 昭和40年5月21日 / 結論: 棄却
無断転貸を理由とする土地賃貸借契約の解除が権利の濫用として許されない場合には、特段の事情がない限り、転借人に対し土地所有権に基づく土地明渡請求は許されない。
事件番号: 昭和25(オ)140 / 裁判年月日: 昭和28年9月25日 / 結論: 棄却
賃借人が賃貸人の承諾なく第三者をして賃借物の使用または収益をなさしめた場合でも、賃借人の当該行為を賃貸人に対する背信的行為と認めるにたらない本件の如き特段の事情があるときは、賃貸人は民法第六一二条第二項により契約を解除することはできない。(少数意見および補足意見がある。)