闘犬の飼主が危険防止のための十全の措置をとらないため右闘犬の襲撃による人身事故等が続発していることを知りながら、飼主に対して飼育場所を提供し、かつ、日常飼育に協力するなど多大の便益を提供していた者が、飼主が不在のためみずから右闘犬の保管に当たつていながら、第三者が右闘犬を容易に連れ出せる程度の施錠装置しかない犬舎を路上に置いたまま漫然外出し、その間に飼主の雇人が酒に酔つて右犬舎から闘犬を連れ出したため、右闘犬が幼児を襲い死亡させた場合には、右便益の提供者は、右事故につき民法七〇九条の不法行為責任を免れない。
闘犬の襲撃による幼児の死亡事故につき飼主に飼育場所を提供しかつ日常飼育に協力していた者が民法七〇九条の不法行為責任を負うとされた事例
民法709条,民法718条
判旨
他人の生命身体に危害を加える危険性の大きい闘犬の飼育に対し、場所の提供や日常的な協力等を通じて多大な便益を提供している者は、自ら保管にあたる際、その便益提供の結果生じる危険を防止すべき高度の注意義務を負い、これに違反した場合は民法709条の責任を負う。
問題の所在(論点)
飼主ではないが飼育に多大な便益(場所提供・飼育協力等)を提供している者が、当該動物による事故について、民法709条上の不法行為責任を負うための注意義務の根拠と内容が問われた。
規範
他人の生命身体に危害を加える蓋然性が高い対象につき、所有者ではない者が飼育場所の提供や日常的な飼育協力等を通じて多大な便益を提供している場合、当該協力者は自ら保管にあたる局面において、その協力行為(便益提供)から生じる他人の生命身体への危険を防止すべき高度の注意義務を負う。この注意義務を怠り損害を発生させた場合、民法709条に基づく不法行為責任を負う。
重要事実
Dは、性格獰猛で強大な土佐犬を飼育し、過去10回以上事故を繰り返していた。上告人は、Dによる危険な管理状況を知りながら、自己所有の居宅の一部を飼育場所として提供し、餌の準備やD不在時の保管などの協力を行っていた。事故当日、上告人はDに代わって保管にあたっていたが、誰でも容易に連れ出し可能な差込錠1個のみの犬舎を路上に置いたまま外出した。その間に酔ったDの雇人Eが犬を連れ出し、幼児Fを襲わせて死亡させる事故が発生した。
あてはめ
まず、本件土佐犬は体格強大かつ性格獰猛で、興奮しやすい状態にあり、格段の注意を要する危険な動物であった。上告人は、飼主Dの不適切な管理を知りながら場所提供や日常的協力という多大な便益を供与し、本件事故時もDに代わり現に保管にあたっていた。そうであれば、上告人は便益提供の結果として生じる危険を防止すべき高度の注意義務を負うといえる。しかるに、以前にも無断で犬を連れ出したことのあるEが存在した状況下で、容易に連れ出し可能な程度の施錠のみで漫然と外出した行為は、上記高度の注意義務に違反するものと解される。
結論
上告人は、幼児Fの死亡につき、民法709条の不法行為責任を免れない。
実務上の射程
民法718条の「占有者」や「保管者」の該当性を直接論じるのではなく、一般不法行為(709条)の枠組みで、危険源への関与(便益提供)を根拠に独自の注意義務を認めた点に特徴がある。不法行為の答案では、特殊不法行為の要件を満たさない場合であっても、管理への関与度合いから709条の注意義務を基礎付ける際の論法として活用できる。
事件番号: 昭和34(オ)1049 / 裁判年月日: 昭和37年2月1日 / 結論: 棄却
畜犬の占有機関がその操作制御方法を十分会得していなかつたにもかかわらず、公道上を、二頭一諸に運動させ、畜犬が被害者に跳びついた際その力に負けて制御できなかつたなど原判示のような事情(原判決引用の第一審判決理由参照)があるときは、飼主に畜犬保管上の過失がある。