一 保安林の指定につき森林法二七条一項にいう「直接の利害関係を有する者」は、右指定の解除処分取消訴訟の原告適格を有する。 二 農業用水の確保を目的とし、洪水予防、飲料水の確保の効果をも配慮して指定された保安林の指定解除により洪水緩和、渇水予防上直接の影響を被る一定範囲の地域に居住する住民は、森林法二七条一項にいう「直接の利害関係を有する者」として、右解除処分取消訴訟の原告適格を有する。 三 いわゆる代替施設の設置によつて洪水、渇水の危険が解消され、その防止上からは保安林の存続の必要性がなくなつたと認められるに至つたときは、右防止上の利益侵害を基礎として保安林指定解除処分取消訴訟の原告適格を認められた者の訴えの利益は失われる。 四 保安林指定解除処分に伴う立木竹の伐採後の跡地利用によつて生ずる利益侵害の危険は、右解除処分取消訴訟の原告適格を基礎づけるものではない。 (一につき意見、三に関連した反対意見がある。)
一 森林法二七条一項にいう「直接の利害関係を有する者」と保安林指定解除処分取消訴訟の原告適格 二 森林法二七条一項にいう「直接の利害関係を有する者」として保安林指定解除処分取消訴訟の原告適格が認められた事例 三 いわゆる代替施設の設置と保安林指定解除処分取消訴訟の訴えの利益 四 保安林指定解除処分に伴う立木竹の伐採後の跡地利用によつて生ずる利益侵害の危険と保安林指定解除処分取消訴訟の原告適格
森林法27条1項,行政事件訴訟法9条
判旨
行政事件訴訟法9条1項の「法律上の利益を有する者」とは、処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。森林法の保安林指定解除処分においては、洪水や渇水の危険から直接の影響を受ける一定範囲の住民には原告適格が認められるが、代替施設の設置等によりその危険が社会通念上解消された場合には訴えの利益は消滅する。
問題の所在(論点)
1. 森林法に基づく保安林指定解除処分の取消訴訟において、周辺住民に原告適格が認められるか。 2. 代替施設の設置により、解除処分を取り消すことによる「法律上の利益」が消滅するか。 3. ミサイル基地設置による「平和的生存権」の侵害といった、跡地利用から生じる不利益が原告適格の基礎となり得るか。
規範
1. 原告適格(行訴法9条1項):法律が公益保護のみならず、同時にそれによって保護される個人の個別的利益をも保護する趣旨を含む場合、その利益を害される者は原告適格を有する。森林法は一般的公益と並んで、森林の存続により生活利益を受ける「直接の利害関係を有する者」の個別的利益をも保護する趣旨を含む。 2. 訴えの利益:処分後、代替施設の設置等の事情変更により、原告適格の基礎となった個別的利益の侵害状態(洪水・渇水の危険)が社会通念上解消された場合には、処分の取消しを求める訴えの利益は消滅する。
事件番号: 平成8(行ツ)180 / 裁判年月日: 平成13年3月13日 / 結論: その他
土砂の流出又は崩壊,水害等の災害により生命,身体等に直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住する者は,森林法(平成11年法律第87号による改正前のもの)10条の2による開発許可の取消訴訟の原告適格を有する。
重要事実
農林水産大臣は、ミサイル基地建設のために北海道長沼町の森林について保安林の指定を解除した(森林法26条2項)。これに対し、周辺住民らが、当該解除により洪水や渇水の危険が生じると主張して、処分の取消しを求めて提訴した。訴訟継続中に、国側は砂防ダム等の代替施設を設置し、これにより治水上の危険は解消されたと主張した。
あてはめ
1. 本件保安林の指定目的には農業用水の確保や洪水予防が含まれ、その理水機能の低下により直接に影響を被る一定範囲の地域(排水機場流域等)に居住する住民は、法27条1項にいう「直接の利害関係を有する者」として原告適格を有する。 2. しかし、設置された砂防堰堤やb一号堰堤の洪水調節能力を科学的に検証した結果、当該地域における洪水の危険は社会通念上なくなったと認められる。したがって、原告適格を基礎づけていた利益侵害の状態は解消されたといえる。 3. 跡地利用(ミサイル基地建設)に伴う利益侵害は、森林法が保護する理水上の個別的利益とは無関係であり、解除処分の原告適格を基礎づける「法律上の利益」を構成しない。
結論
直接の理水上の影響を受ける住民には原告適格が認められるが、本件では代替施設の設置により治水上の危険が解消されたため、訴えの利益は消滅しており、訴えは不適法として却下される。
実務上の射程
「法律上の利益」の判断において、個別保護性の有無を判断するための「法律の趣旨・目的」の解釈手法を示した重要判例である(長沼ナイキ事件)。特に、訴訟途中の事情変更により訴えの利益が消滅する具体的判断枠組み(社会通念上の危険の解消)として頻出する。
事件番号: 昭和57(行ツ)83 / 裁判年月日: 昭和58年9月6日 / 結論: 破棄自判
農地法五条所定の許可がされた農地上に建物が築造されることにより右農地に隣接する農地の日照、通風等が阻害されて農作物の収穫が激減し、その農地としての効用が失われるおそれがあるとしても、右隣接農地の所有者は、右許可の取消しを求める原告適格を有しない。
事件番号: 昭和62(行ツ)49 / 裁判年月日: 昭和62年11月24日 / 結論: 棄却
里道の近くに居住し、その通行による利便を享受することができる者であつても、当該里道の用途廃止により各方面への交通が妨げられるなどその生活に著しい支障が生ずるような特段の事情があるといえないときは、右用途廃止処分の取消しを求めるにつき原告適格を有しない。