土砂の流出又は崩壊,水害等の災害により生命,身体等に直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住する者は,森林法(平成11年法律第87号による改正前のもの)10条の2による開発許可の取消訴訟の原告適格を有する。
林地開発許可の取消訴訟と開発区域の周辺住民の原告適格
行政事件訴訟法9条,森林法(平成11年法律第87号による改正前のもの)10条の2
判旨
森林法に基づく開発許可の取消訴訟において、災害等により直接的な被害を受けることが予想される範囲に居住する住民には原告適格が認められる一方、財産権のみを有する者や水利、環境上の利益を主張する者には認められない。
問題の所在(論点)
森林法10条の2に基づく開発許可の取消訴訟において、周辺住民の生命・身体の安全、周辺土地の財産権、水源のかん養による農業上の利益、および環境上の利益は、同法により保護された「法律上の利益」にあたるか。
規範
行政事件訴訟法9条1項にいう「法律上の利益を有する者」とは、処分により自己の権利又は法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。当該行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させず、個々人の個別的利益としても保護する趣旨を含むか否かは、法規の趣旨・目的、保護しようとしている利益の内容・性質等を考慮して判断すべきである。森林法10条の2第2項1号及び1号の2は、災害防止機能という公益確保のみならず、災害による被害が直接及ぶことが想定される近接範囲内の住民の生命・身体の安全等を個別的利益としても保護する趣旨を含む。
重要事実
大規模なゴルフ場造成(約117ha)を目的とする森林開発許可がなされた。開発区域は水害が発生したことのある川の上流に位置する。原告として、①開発区域直近(下方約100m〜数百m)の住民、②区域内・周辺の立木所有者、③同川から取水し農業を営む者が、許可の違法を理由に取消しを求めた。
あてはめ
(1)①の近接住民については、同法10条の2第2項1号・1号の2が、無謀な開発による土砂流出や水害から人の生命・身体の安全を守ることを目的としていることから、直接的な被害が予想される範囲の居住者に個別的利益を認めるのが相当である。(2)他方、②の財産権(立木所有権)については、同法の規定から個別の財産権まで保護する趣旨を読み取るのは困難である。(3)③の取水農業者(水源かん養)および環境上の利益については、同項2号・3号が「水の確保」や「環境保全」を専ら公益的見地から審査することを予定しており、個々人の個別的利益を保護する趣旨とは解されない。したがって、②③の者は、個別的利益を侵害されたとはいえない。
結論
開発区域に近接し、災害による直接的被害が予想される範囲の住民(①)には原告適格が認められるが、立木所有者(②)や取水農業者(③)には原告適格は認められない。
実務上の射程
行政法規の趣旨・目的を検討する際、要件(1号・1号の2)ごとに保護利益を細分化して判断する手法を示している。居住者の生命・身体は個別的利益として厚く保護する一方、財産権や環境利益については「専ら一般的公益」として切り捨てる傾向にあるため、起案では各号の要件が誰のどのような利益を想定しているかを厳格に書き分ける必要がある。
事件番号: 平成10(行ツ)10 / 裁判年月日: 平成12年3月17日 / 結論: 棄却
知事が墓地、埋葬等に関する法律一〇条一項に基づき大阪府墓地等の経営の許可等に関する条例(昭和六〇年大阪府条例第三号)七条一号の基準に従ってした墓地の経営許可の取消訴訟につき、墓地から三〇〇メートルに満たない地域に敷地がある住宅等に居住する者は、原告適格を有しない。
事件番号: 平成8(行ツ)76 / 裁判年月日: 平成11年11月25日 / 結論: 棄却
都市計画事業の事業地の周辺地域に居住し又は通勤、通学しているが事業地内の不動産につき権利を有しない者は、都市計画法五九条二項に基づく同事業の認可処分又は同条三項に基づく同事業の承認処分の取消しを求める原告適格を有しない。
事件番号: 平成27(行ヒ)301 / 裁判年月日: 平成27年12月14日 / 結論: 棄却
市街化調整区域内にある土地を開発区域として都市計画法(平成26年法律第42号による改正前のもの)29条1項による開発許可を受けた開発行為に関する工事が完了し,当該工事の検査済証が交付された後においても,当該開発許可の取消しを求める訴えの利益は失われない。