地方公共団体による河川港湾等の汚染ないしヘドロ堆積等の除去に要する費用の支出については、住民は、右費用のうち、当該地方公共団体が行政上当然に支出すべき部分とその行政裁量により特別の支出措置を講ずるのを相当とする部分とを除いた汚水排出者の不法行為等による損害の填補に該当し終局的には当該汚水排出者に負担させるのを相当とする部分に限り、地方自治法二四二条の二第一項四号の規定に基づき当該地方公共団体に代位して汚水排出者に対し損害賠償請求をすることができる。
地方公共団体による河川港湾等の汚染ないしヘドロ堆積等の除去に要する費用の支出と汚水排出者に対する地方自治法二四二条の二第一項四号の規定に基づく損害賠償代位請求の範囲
地方自治法242条の2第1項4号,民法709条
判旨
住民監査請求の要件は、地方公共団体の損害を原因者に負担させるべき旨の主張が含まれていれば足り、具体的に損害賠償請求権の不行使が「怠る事実」に当たるとまで主張する必要はない。また、公害等による浚渫費用の支出のうち、住民が代位請求できるのは、行政上の負担や裁量による支出を除いた、汚水排出者の不法行為等に基づき終局的に排出者に負担させるのが相当な部分に限られる。
問題の所在(論点)
1. 住民監査請求において、損害賠償請求権の不行使が「怠る事実」であるという具体的な法的主張まで必要か。2. 地方公共団体が支出した公害対策費用(浚渫費)のうち、住民訴訟において相手方に請求できる損害の範囲はどのように画定されるか。
規範
1. 住民監査請求(地方自治法242条1項)の適法要件として、損害賠償請求権の不行使が「怠る事実」に当たるとの法的構成まで具体的に主張することは要しない。2. 住民訴訟(同法242条の2第1項4号)において、地方公共団体が公物管理として支出した費用(浚渫費等)につき排出者へ代位請求できる範囲は、(1)行政上当然に支出すべき部分、(2)行政裁量により特別の支出措置を講ずるのが相当な部分、を除いた、(3)汚水排出者の不法行為等により終局的に当該排出者に負担させるのが相当な部分に限られる。3. 住民訴訟の原告が死亡した場合、訴訟は当然に終了する。
重要事実
静岡県内の製紙会社4社が工場廃水を排出したことにより、港湾にヘドロが堆積した。静岡県は港湾管理者として昭和44年度に浚渫費用1億5000万円を支出したが、排出企業に対して損害賠償請求を行わなかった。これに対し住民らが、当該費用を企業に負担させるべきであるとして住民監査請求を経て、県に代位して損害賠償を求める住民訴訟を提起した。原審は、不法行為の事実がある以上、支出した浚渫費用の全額を損害と認め、企業側の責任を肯定した。
あてはめ
1. 監査請求書に「大製紙企業に浚渫費用を負担せしめること」等の記載があれば、原因者に負担を求める趣旨は明確であり、監査請求の要件を充たす。2. 河川・港湾への汚水排出は一定限度まで許容され、その処理は行政作用に属する。また、行政側の対策不備等もあり得るため、費用の分担は公物管理者の合理的・合目的的な行政裁量に委ねられる。3. したがって、単に不法行為の事実があるだけで浚渫費全額を損害と認めることはできず、行政負担分や裁量による支出分を切り分け、終局的に排出者が負担すべき「不法行為による損害」の範囲を個別に認定しなければならない。
結論
1. 住民監査請求の要件は充たされる。2. 損害額の算定において、行政負担・裁量分を考慮せず全額を不法行為による損害とした原判決には、地方自治法の解釈誤り及び理由不備の違法がある。3. 原告が死亡した部分については、住民訴訟の性質上、訴訟は終了する。
実務上の射程
住民監査請求の「前置」の要件を緩やかに解釈する一方で、住民訴訟における「損害」の範囲については、行政の公物管理権限や裁量を尊重し、不法行為法上の損害と行政上の費用負担を厳格に峻別する。答案上は、公害等の事案で行政支出を代位請求する際、全額ではなく「終局的に原因者が負担すべき部分」に絞ったあてはめが求められる。
事件番号: 昭和62(行ツ)22 / 裁判年月日: 平成2年4月12日 / 結論: 破棄自判
保安林内の市有地に市道を建設するに際し、市建設局長らが請負人をして道路建設工事をさせる旨の工事施行決定書に決裁をしてこれに関与した行為は、道路整備計画の円滑な遂行・実現を図るという道路建設行政の見地からする道路行政担当者としての行為(判断)であつて、住民訴訟の対象となる財産管理行為には当たらない。
事件番号: 平成23(行ヒ)452 / 裁判年月日: 平成25年3月28日 / 結論: 破棄差戻
広域連合がし尿及び浄化槽汚泥の積替え保管施設等の用地として土地を賃借する契約につき,上記用地を確保するため当該土地を賃借する必要性,上記施設の性質に伴う用地確保の緊急性や困難性といった事情について十分に考慮することなく,当該契約において鑑定評価を経ずに定められた賃料額が私的鑑定において適正とされた賃料額と比較して高額で…