商法二六六条の三第一項前段所定の第三者の取締役に対する損害賠償請求権の消滅時効期間は一〇年と解すべきである。
商法二六六条の三第一項前段所定の第三者の取締役に対する損害賠償請求権の消滅時効期間
民法167条1項,民法724条,商法266条の3第1項
判旨
取締役の第三者に対する責任は不法行為責任ではなく、会社法の規定により特に認められた責任であるため、その消滅時効には民法724条(短期消滅時効)は適用または類推適用されず、一般債権と同様の時効期間が適用される。
問題の所在(論点)
取締役が職務執行において悪意または重大な過失があった場合に第三者に対して負う損害賠償責任(現行会社法429条1項)の消滅時効期間について、民法724条(不法行為の短期消滅時効)が適用されるか。
規範
取締役の第三者に対する責任は、不法行為責任ではなく、会社法がその責任を重くするために特に認めた法定の責任である。したがって、不法行為責任を前提とする民法724条の短期消滅時効は当然には適用されない。また、民法724条の趣旨は、予期せぬ偶然の事故により不安定な立場に置かれる加害者を保護する点にあるが、取締役の責任は通常、第三者と会社との法律関係を基礎として生じるものであり、かかる不安定な立場にはない。よって、同条の類推適用の余地もなく、他に特別の規定がない以上、一般債権の消滅時効規定(民法167条1項 ※現行法166条1項)が適用される。
重要事実
第三者(上告人)が、旧商法266条の3第1項前段(現行会社法429条1項)に基づき、会社取締役に対して損害賠償を請求した事案。この請求権の消滅時効について、不法行為の短期消滅時効(民法724条)が適用されるのか、あるいは一般債権の消滅時効が適用されるのかが争点となり、上告人が民法724条の適用を否定した原審の判断を不服として上告した。
あてはめ
まず、本件責任は不法行為責任ではなく法定の特殊な責任であるため、民法724条の直接適用の根拠を欠く。次に類推適用の是非について検討すると、民法724条は「未知の当事者間で偶発的に生じる不法行為」による加害者の不安定な立場を解消する趣旨であるが、取締役の責任は会社取引等の既知の法律関係を背景として生じるため、取締役が不当に不安定な立場に置かれるとはいえない。したがって、類推適用すべき実質的論拠もない。よって、特別の規定がない本権利には、一般の消滅時効規定が適用されるべきである。
結論
取締役の第三者に対する損害賠償請求権の消滅時効期間については、民法724条は適用(類推適用を含む)されず、民法の一般規定に従う。
実務上の射程
会社法429条1項に基づく責任追及において、時効期間が不法行為の「知った時から3年」ではなく「権利を行使できる時から10年(現行法下では5年/10年)」であることを確定させた判例である。答案上は、本責任の法的性質(法定責任説)から消滅時効の結論を導く際に活用する。なお、現行民法下の時効期間(166条1項)への読み替えに注意が必要である。
事件番号: 昭和39(オ)244 / 裁判年月日: 昭和42年3月7日 / 結論: 棄却
甲株式会社の代表取締役乙が原判示の事情(原判決理由参照)のもとで丙から金銭を奪取した場合には、乙は、商法第二六六条ノ三第一項の規定により、丙に対してその被つた損害の賠償をする義務を負う。