準禁治産者である権利者が保佐人の同意を得られないため訴を提起できない場合でも、その権利についての消滅時効の進行は妨げられない。
準禁治産者が訴を提起するにつき保佐人の同意を得られない場合と消滅時効の進行
民法12条1項4号,民法166条1項
判旨
消滅時効の起算点となる「権利を行使することができる時」とは、権利行使を妨げる法律上の障碍がない状態を指し、準禁治産者が訴えの提起につき保佐人の同意を得られない事由は、単なる事実上の障碍にすぎない。
問題の所在(論点)
消滅時効の起算点に関する民法166条1項(旧法166条1項)の「権利を行使することができる時」の意義。特に、制限行為能力者が保佐人の同意を得られないという事情が、時効の進行を妨げる「法律上の障碍」に該当するか。
規範
消滅時効は、権利者が「権利を行使することができる時」から進行する(民法166条1項)。この「権利を行使することができる」とは、権利行使を妨げる期限の未到来や条件の未成就といった、客観的な「法律上の障碍」がない状態を指す。権利行使を困難にする事情であっても、それが主観的・一時的な事由であれば、単なる「事実上の障碍」にすぎず、時効の進行を妨げない。
重要事実
準禁治産者(現在の制限行為能力者制度における被保佐人に相当)である上告人は、被上告人らに対して損害賠償債権を有していた。上告人が本件訴えを提起しようとした際、保佐人から訴訟提起に必要な同意を得ることができなかった。その後、消滅時効期間が経過したとして、被上告人らは時効の抗弁を主張した。
あてはめ
消滅時効制度の本旨は、一定期間の権利不行使という客観的事実に基づき法律関係の安定を図ることにある。本件において、準禁治産者が訴え提起に必要な保佐人の同意を得られないという事態は、権利行使を事実上困難にするものではあるが、権利の発生や行使自体を法的に不可能にする「法律上の障碍」とはいえない。したがって、本件損害賠償債権は、客観的に行使可能な状態となった時から時効が進行し、同意の欠如という個人的事情によってその進行が妨げられることはない。
結論
準禁治産者が保佐人の同意を得られないことは「事実上の障碍」にすぎず、消滅時効は進行する。したがって、被上告人らによる時効の抗弁を認めた原審の判断は正当である。
実務上の射程
消滅時効の起算点(客観的起算点)の解釈に関するリーディングケースである。「法律上の障碍」と「事実上の障碍」を厳格に区別する判例の態度は、改正民法下の実務においても維持されており、権利者の主観的事情を排除して法的安定性を優先する答案構成の基礎となる。
事件番号: 昭和48(オ)1214 / 裁判年月日: 昭和49年9月26日 / 結論: 棄却
不法行為による受傷の後遺症が顕在化したのちにおいて、症状は徐々に軽快こそすれ、悪化したとは認められないなど、受傷したのちの治療経過が原審認定のとおり(原判決理由参照)である場合には、右後遺症が顕在化した時が民法七二四条にいう損害を知つた時にあたり、その時から後遺症に基づく損害賠償請求権の消滅時効が進行する。