不法行為の被害者が弁護士に対し損害賠償請求の訴を提起することを委任し、成功時に成功額の一割五分の割合による報酬金を支払う旨の契約を締結した場合には、右契約の時が民法七二四条にいう損害を知つた時にあたり、その時から右請求権の消滅時効が進行するものと解して妨げがない。
不法行為による弁護士費用の損害賠償請求権の消滅時効が当該報酬の支払契約をした時から進行するものとされた事例
民法724条
判旨
不法行為に基づく弁護士費用の損害賠償請求権の消滅時効は、被害者が弁護士に訴訟提起を委任し、成功報酬の支払を約した時に「損害を知った時」に該当し進行を始める。この際、損害額が確定していることや、報酬を現実に支払ったことは必要ではない。
問題の所在(論点)
不法行為に基づく弁護士費用の損害賠償請求権について、民法724条(改正前)の消滅時効の起算点となる「被害者が損害を知った時」をいつと解すべきか。特に、報酬額が未確定で未払いの状態でも時効が進行するか。
規範
民法724条(改正前。現724条1号)にいう「損害を知った時」とは、被害者が損害の発生を客観的かつ具体的に認識した時を指す。弁護士費用については、損害賠償請求の目的で弁護士に訴訟を委任し、報酬に関する契約を締結した時点をもって、当該種類の損害が発生したことを知ったと解するのが相当である。損害額が具体的に確定していることや、現実に費用を支出したことまでは要しない。
重要事実
被害者である上告人は、昭和35年9月に発生した不法行為に基づき、昭和36年10月頃、弁護士に本訴の提起を委任し、勝訴時に報酬を支払う旨の成功報酬契約を締結した。その後、第一審での請求を経て、控訴審(昭和42年9月および43年5月)において、弁護士費用等の損害賠償請求を拡張する旨の主張をした。これに対し、相手方は3年の消滅時効を援用した。
あてはめ
上告人は昭和36年10月頃に弁護士と成功報酬契約を締結しており、この時点で、将来勝訴した際に報酬を支払うべき義務、すなわち弁護士費用という「損害」が発生することを認識したといえる。請求拡張が行われたのは昭和42年以降であり、契約締結時から起算して3年の時効期間が経過していることは明らかである。成功報酬制により額が未確定であっても、損害の発生自体を知った以上、時効の進行を認めるべきである。また、相手方が拡張後の全額について時効を援用した以上、その一部である当初の請求部分についても時効援用の効果が及ぶ。
結論
弁護士費用の損害賠償請求権は、弁護士との委任契約締結時を起算点として、3年の経過により消滅時効にかかる。本件の請求拡張は時効完成後になされたものであり、棄却を免れない。
実務上の射程
弁護士費用を不法行為損害として請求する場合の消滅時効の起算点を明確化した。実務上、訴え提起後に相当期間を経てから弁護士費用を請求(追加)する場合、委任契約時から3年(現行法では、知った時から3年・不法行為時から20年)を経過していないか留意が必要となる。後遺障害等と異なり、委任契約という法的行為時を基準とするため、予見可能性が高い。
事件番号: 昭和55(オ)1113 / 裁判年月日: 昭和58年9月6日 / 結論: 棄却
不法行為と相当因果関係に立つ損害である弁護士費用の賠償債務は、当該不法行為の時に履行遅滞となるものと解すべきである。