一、社団法人において、法人格がまつたくの形骸にすぎない場合またはそれが法律の適用を回避するために濫用される場合には、その法人格を否認することができる。 二、株式会社の実質がまつたく個人企業と認められる場合には、これと取引をした相手方は、会社名義でされた取引についても、これを背後にある実体たる個人の行為と認めて、その責任を追求することができ、また、個人名義でされた取引についても、商法五〇四条によらないで、直ちにこれを会社の行為と認めることができる。
一、法人格否認の法理 二、実質が個人企業と認められる株式会社における取引の効果の帰属
民法33条,商法52条,商法504条
判旨
法人格が全くの形骸にすぎない場合や、法律の適用を回避するために濫用される場合には、信義則に基づき法人格を否認し、法人とその背後の実体を同一視できる。本件では、会社の実質が個人企業であるため、個人名義の明渡合意を会社の行為として認め、会社に対し明渡を請求できるとした。
問題の所在(論点)
株式会社の法人格が形骸化している場合に、会社とは別個の背後者個人がなした法律行為(裁判上の和解)の効力を、会社自身の行為として認めることができるか。法人格否認の法理の成否が問題となる。
規範
法人格の付与は、社会的に存在する団体を権利主体として表現せしめるに値する場合に行われる法的技術に基づく。したがって、①法人格が全くの形骸にすぎない場合、または②それが法律の適用を回避するために濫用される場合には、法人格を認めることは本来の目的に照らして許されず、法人格を否認すべきである。この場合、相手方は会社名義の取引を背後者の行為として責任追及でき、また、個人名義の行為であっても直ちに会社の行為であると認め得る。
重要事実
Aは、自己が経営する「D屋」の税金軽減目的で上告会社を設立し代表者に就任したが、会社の実質は全くの個人企業であった。被上告人はAに店舗を賃貸し、返還を求めたところ、Aは個人名義で明渡を約束する書面を差し入れ、さらに裁判上の和解においても「昭和43年1月末日までに明け渡す」ことに合意した。その後、上告会社は「和解はA個人のものであり、賃借人である会社を拘束しない」と主張して明渡を拒んだ。
あてはめ
上告会社はAが節税目的で設立したものであり、その実質は「個人則会社」といえるほど全くの個人企業であった(①形骸化)。被上告人も実質的にA個人との取引と認識していた。このような実態下でAが個人名義でなした「店舗を明け渡す」旨の裁判上の和解は、会社という法的形態の背後にある実体そのものの意思表示といえる。したがって、法人格を否認して実体である個人に迫ることが許され、A個人の行為は直ちに上告会社の行為と解するのが相当である。
結論
個人名義でなされた明渡の合意は、上告会社の行為と認められる。したがって、上告会社は合意に基づき、本件店舗を被上告人に明け渡すべき義務を負う。
実務上の射程
法人格否認の法理を認めたリーディングケースである。「形骸化」と「濫用」の2類型を提示しており、本件は主に「形骸化」の類型である。答案上は、相手方の保護の必要性と、形式的な法人格の固執が正義・公平に反する事情(信義則違反)を具体的事実から抽出して認定する際に用いる。なお、判決文にある通り、既判力の拡張については慎重な検討を要することに注意が必要である。
事件番号: 平成4(オ)1013 / 裁判年月日: 平成7年3月28日 / 結論: 破棄差戻
甲会社が、その代表者乙に対して賃貸していた建物の賃貸借契約を合意解除したとして、乙の妻丙に対し、所有権に基づき右建物の明渡しを請求した場合につき、乙が、甲会社の経営及び管理のすべてを行っており、丙との夫婦関係が悪化したため丙と子を右建物に残したまま別居し、その八日後に賃貸人の代表者と賃借人の立場を兼ねて賃貸借契約を合意…