賃借権譲渡に賃貸人の書面による承諾を要する旨の特約があるにかかわらず、賃借人が賃貸人の書面による承諾を得ないで賃借権を譲渡した場合であつても、右書面による承諾を必要とした特約の趣旨その他諸般の事情に照らし、右譲渡が賃貸人に対する背信的行為であると認めるに足りない特段の事情が存する事実について、賃借人から立証がなされたときには、前記特約に基づく賃貸借の解除は、許されない。
賃借権譲渡に賃貸人の書面による承諾を要する旨の特約と賃貸借の解除
民法540条,民法612条
判旨
賃借権譲渡に賃貸人の書面による承諾を要する旨の特約がある場合でも、当該譲渡が賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、無断譲渡を理由とする解除は認められない。
問題の所在(論点)
民法612条2項に基づく解除に関し、賃借権譲渡に「書面による承諾」を要する旨の特約がある場合において、書面によらない「黙示の承諾」のみを理由に解除権の発生を否定できるか。
規範
賃借権譲渡につき書面による承諾を要する旨の特約は、紛争防止という合理的な目的を有する有効な合意である。もっとも、書面による承諾がない場合であっても、(1)特約成立後に書面による承諾を不要とする合意が新たに成立したか、または(2)特約の趣旨や諸般の事情に照らし、譲渡が賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情があることを賃借人が立証したときは、賃貸人は解除権を行使できない。
重要事実
上告人(賃貸人)と被上告人(賃借人)との間の土地賃貸借契約において、賃借権を譲渡する場合には「賃貸人の書面による承諾」を要する旨の特約が付されていた。その後、被上告人は上告人から書面による承諾を得ないまま賃借権を譲渡した。原審は、上告人による「黙示の承諾」があったことを認定し、解除権は発生しないと判断したが、書面による承諾を不要とする合意の成否や、背信的行為と認めるに足りない特段の事情の有無については十分に審理していなかった。
事件番号: 昭和42(オ)1362 / 裁判年月日: 昭和43年5月28日 / 結論: 棄却
賃借人たる甲女が同居の夫乙男に借地の一部を無断転貸した行為を賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があつて、右無断転貸を理由とする解除が効力を生じないとされた場合において、もし甲乙間の生活関係に離婚等の変動を生じ、これにより前記特段の事情が解消されたときは、また、その時点において別途判断すれば足り、一般にこ…
あてはめ
本件では「書面による承諾」を要する特約が有効に存在するため、単に黙示の承諾があったというだけでは、特約の遵守を免れることはできない。本件譲渡が有効とされるためには、まず、当事者間で「書面による承諾を不要とする」旨の変更合意があったといえるか、あるいは、書面を要求した特約の趣旨を考慮してもなお、当該譲渡が賃貸人との信頼関係を破壊するような「背信的行為」に当たらないといえる特段の事情を具体的に検討すべきである。原審は、これらの事実認定を欠いたまま解除を否定しており、審理不尽の違法がある。
結論
書面による承諾の特約がある以上、書面によらない承諾(黙示の承諾等)があったとしても、書面を不要とする合意の成立や背信性の欠如という特段の事情が立証されない限り、解除権の発生を否定することはできない。
実務上の射程
信頼関係破壊の法理を、方式の制限(書面特約)がある場合にも適用することを明示した判例である。答案上は、特約の有効性を認めつつも、民法612条の解除一般と同様に、背信性の有無という実質的な観点から救済の余地があることを論じる際に用いる。単なる「黙示の承諾」の認定だけでなく、もう一段踏み込んだ「特段の事情」の主張・立証が必要となる点に注意する。
事件番号: 昭和37(オ)322 / 裁判年月日: 昭和39年1月16日 / 結論: 棄却
建物所有のための土地賃借人たる母がその所有する建物をその親権に服する子との共有名義とし、これにともない敷地の賃借権の持分を譲渡した場合には、賃借地の利用および賃料支払等の実質関係に前後変りがなければ、右賃借権の持分の譲渡は、これについて賃貸人の承諾がなくても、民法第六一二条による解除の事由とはならない。
事件番号: 昭和42(オ)1369 / 裁判年月日: 昭和43年3月29日 / 結論: 棄却
賃借権の無断譲渡が賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない旨の特段の事情の存在については、賃借人において、主張・立証すべきである。
事件番号: 昭和42(オ)657 / 裁判年月日: 昭和46年6月22日 / 結論: 棄却
宅地の賃借人が借地の一部について借地権を第三者に譲渡した場合において、右譲渡部分が約四二〇平方メートルの借地のうち最も価値の低い部分にあたる約七〇平方メートルにすぎず、賃借人が従来の事情から右譲渡につき賃貸人の承諾が得られるものと思い、その際の名義書替料として相当の金員を賃貸人に支払うことを予定していた等、判示のような…
事件番号: 昭和32(オ)863 / 裁判年月日: 昭和35年3月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃借人が賃貸人の承諾を得ずに賃借権を譲渡し、譲受人が目的物を占有している場合、賃貸人は民法612条2項に基づき賃貸借契約を解除することができ、その請求が直ちに信義則(民法1条2項)に反するものとはいえない。 第1 事案の概要:上告人A1は、被上告人が所有する土地の賃借権を有していた。A1は、当該土…