家屋賃貸借契約において、一箇月分の賃料の遅滞を理由に催告なしで契約を解除することができる旨を定めた特約条項は、賃料の遅滞を理由に当該契約を解除するにあたり、催告をしなくても不合理とは認められない事情が存する場合には、催告なしで解除権を行使することが許される旨を定めた約定として有効と解するのが相当である。
家屋賃貸借契約において一箇月分の賃料の遅滞を理由に無催告解除を許容した特約条項の効力
民法541条,民法第3編第2章第7節第3款
判旨
賃料不払による無催告解除の特約は、催告なしに解除してもあながち不合理とは認められないような特段の事情がある場合に限り、その効力が認められる。本件では、5か月分の賃料延滞があり、使用収益の妨害も限定的であったため、特約に基づく無催告解除が有効とされた。
問題の所在(論点)
賃料滞納を理由とする無催告解除特約の有効性と、信頼関係破壊の法理に基づくその制限的解釈が問題となる。また、使用収益に支障がある場合に賃料全額の支払拒絶が認められるか、及び解除後の修繕義務不履行を理由とする対抗の可否も争点となった。
規範
賃貸借契約は当事者間の信頼関係を基礎とする継続的債権関係である。そのため、無催告解除の特約は、賃料が約定の期日に支払われず、契約を解除するに当たり催告をしなくてもあながち不合理とは認められないような事情が存する場合には、無催告で解除権を行使することが許される旨を定めたものと解するのが相当である。
重要事実
賃貸人(被上告人)と賃借人(上告人)は、家屋の賃貸借契約(賃料月額1万5000円)を締結した。当該契約には「賃料を一箇月でも滞納したときは催告を要せず契約を解除することができる」との特約があった。賃借人は、昭和38年11月分から同39年3月分までの5か月分の賃料を滞納した。一方、賃借人の居住に際して一定の支障や妨害は生じていたが、使用収益を不能または著しく困難にする程のものではなかった。
あてはめ
まず、賃借人は5か月間もの長期間、賃料の支払を怠っている。次に、賃借人が主張する居住上の支障については、使用収益を著しく困難にする程度のものではないため、賃料全額の支払を拒む理由にはならない。したがって、本件においては他に特段の事情が認められない限り、催告なしに解除してもあながち不合理とは認められない事情があるといえる。また、解除後は賃貸人の修繕義務も消滅するため、これを理由とした未払賃料の支払拒絶も認められない。
結論
本件無催告解除特約に基づく解除の意思表示は有効であり、賃貸借契約は適法に終了した。賃借人の賃料全額の支払拒絶や権利濫用の主張は認められない。
実務上の射程
無催告解除特約が当然には有効とならず、信頼関係の法理によって限定解釈されることを示した重要判例である。答案上は、特約の存在を指摘した上で、本判例の規範を提示し、「不合理とは認められない事情(滞納期間、滞納額、不払の理由等)」を具体的事実から拾ってあてはめる必要がある。
事件番号: 昭和44(オ)781 / 裁判年月日: 昭和48年3月22日 / 結論: 棄却
一、建物賃貸借における敷金は、賃貸借終了後、建物明渡完了の時において、それまでに生じた延滞賃料や賃料相当損害金などを控除した残額につき発生する。 二、建物の賃借人が一〇年以上にわたり全く賃料を支払わない場合に、賃貸人が賃貸借契約上の催告不要の特約に基づき無催告で右契約を解除することは、あながち不合理ではなく、その解除は…