一 借地権者から建物とともに借地権を譲りうけた第三者が、該借地権譲受について賃貸人の承諾のえられぬまま、右建物に増築等の工事を施したときは、判示のような場合を除き、譲受当時の原状に回復したうえでなければ買取請求権を行使できないものと解すべきである。 二 所有者の異なる数筆の土地に跨つて存在する建物についての借地法第一〇条の建物買取請求権は、当該賃貸人の所有地上に存する建物部分が区分所有権の対象となる場合にかぎり、その部分についてのみ認められるものと解すべきである。
一 土地賃借権の無断譲受人が地上建物に増築等の工事をした場合と建物買収請求権 二 所有者の異なる数筆の土地に跨つて存在する建物と建物買取請求権
借地法10条
判旨
無断譲受人が借地上の建物に増改築を施した場合、買取請求権の行使には原則として譲受当時の原状回復を要する。また、建物の一部が買取対象となる場合には、その部分が区分所有権の客体となり得る独立性を備えていなければならない。
問題の所在(論点)
1. 無断譲受人が建物を増改築した場合、どのような条件で建物買取請求権を行使できるか。2. 建物の一部のみを対象として建物買取請求権を行使する場合の要件は何か。
規範
1. 無断譲受人による増改築がある場合、原則として譲受当時の原状に回復した上でなければ買取請求権を行使できない。ただし、(1)工事が維持・保存に必要であるとき、(2)些細なもので賃貸人に予想外の出捐を強いないとき、(3)増加価格分を放棄し譲受当時の価格で請求するときは、現状での請求が認められる。2. 建物の一部について買取請求をする場合、その部分は区分所有権の対象となる独立の所有権の客体たるに適する状態であることを要する。
重要事実
借地権者から建物を譲り受けた被上告人が、賃貸人(上告人)の承諾を得ないまま、当該建物に2階部分を増築した。その後、借地権の譲渡について承諾が得られなかったため、被上告人は増築後の建物の現状における価格で建物買取請求権(旧借地法10条、現借地借家法14条参照)を行使した。なお、本件建物は上告人の所有地と他人の所有地に跨って存在しており、上告人所有地上の部分のみが買取対象とされていた。
事件番号: 昭和37(オ)643 / 裁判年月日: 昭和38年1月31日 / 結論: 棄却
借地上の建物に対し通常の修理、模様替の範囲を超えた増改築が土地転借人によつて加えられ、建物の同一性を失うに至つた場合には、借地法第一〇条による建物買取請求権を行使することはできない。
あてはめ
1. 無断譲受人は敷地使用権限がないまま増改築を行うリスクを負うべきであり、賃貸人に予想外の価格増加を負担させるのは不合理である。本件では、2階の増築が維持・保存に必要なものか、あるいは些細なものか等の例外的事由が審理されていない。2. 買取請求により建物の所有権は賃貸人に移転するため、対象部分は独立した所有権の客体でなければならない。本件建物が上告人所有地上に存する部分のみで区分所有権の客体となり得るかどうかが判断されていない。
結論
増改築が維持・保存に必要等の特段の事情がない限り、原状回復なき現状での買取請求は認められない。また、対象部分が区分所有権の客体となり得ない場合には買取請求は認められない。原審の判断には審理不尽・理由不備があるため、破棄差し戻しを免れない。
実務上の射程
無断譲渡・転貸に伴う建物買取請求の事案において、増改築による「価格の不当な吊り上げ」から賃貸人を保護する論拠として重要である。答案上は、まず区分所有権の客体性を検討し、次に増改築の程度に応じた買取範囲・価格の修正を論じる際に用いる。
事件番号: 昭和41(オ)312 / 裁判年月日: 昭和43年10月29日 / 結論: 棄却
借地法第一〇条に基づく買取請求権の行使により借地上建物の所有権が移転した場合においても、建物の賃借人は、借家法第一条によつて賃借権を対抗することができる。
事件番号: 昭和41(オ)263 / 裁判年月日: 昭和41年11月22日 / 結論: 棄却
借地上の建物につき登記がなされる以前に右敷地の所有権移転があつたため、建物所有者が右敷地取得者に借地権を対抗できない場合にあつては、当該建物を譲り受けた者は、右敷地取得者に対し建物買取請求権を有しない。
事件番号: 昭和47(オ)90 / 裁判年月日: 昭和51年6月3日 / 結論: 棄却
(省略)(最高裁昭和三九年(オ)第一四五〇号同四一年四月二一日第一小法廷判決・民集二〇巻四号七二〇頁参照)
事件番号: 昭和33(オ)518 / 裁判年月日: 昭和35年9月20日 / 結論: 棄却
一 借地法第一〇条の建物買取請求権が行使された場合、土地賃貸人は、特段の事情がないかぎり、右買取請求権行使以前の期間につき賃料請求権を失うものではないけれども、これがため右期間中は建物取得者の敷地不法占有により賃料相当の損害を生じないとはいい得ない。 二 借地法第一〇条の建物買取請求権が行使された後、建物取得者は買取代…