一、会社による政治資金の寄附は、客観的、抽象的に観察して、会社の社会的役割を果たすためになされたものと認められるかぎり、会社の権利能力の範囲に属する行為である。 二、憲法三章に定める国民の権利および義務の各条項は、性質上可能なかぎり、内国の法人にも適用されるものであるから、会社は、公共の福祉に反しないかぎり、政治的行為の自由の一環として、政党に対する政治資金の寄附の自由を有する。 三、商法二五四条ノ二の規定は、同法二五四条三項、民法六四四条に定める善管義務をふえんし、かつ、一層明確にしたにとどまり、通常の委任関係に伴う善管義務とは別個の、高度な義務を規定したものではない。 四、取締役が会社を代表して政治資金を寄附することは、その会社の規模、経営実績その他社会的経済的地位および寄附の相手方など諸般の事情を考慮して、合理的な範囲内においてなされるかぎり、取締役の忠実義務に違反するものではない。
一、政治資金の寄附と会社の権利能力 二、会社の政党に対する政治資金の寄附の自由と憲法三章 三、商法二五四条ノ二の趣旨 四、取締役が会社を代表して政治資金を寄附する場合と取締役の忠実義務
民法43条,民法644条,商法166条1項1号,商法254条ノ2,商法254条3項,憲法3章
判旨
会社は、社会的実在として期待される範囲内において政治資金の寄附を行うことができ、その金額が会社の規模や経営状態に照らして相当な範囲内であれば、定款の目的の範囲内の行為として有効であり、取締役の忠実義務にも違反しない。
問題の所在(論点)
1. 会社による政治資金の寄附は、定款に定められた目的の範囲内(民法34条、旧商法等)といえるか。 2. 会社に政治的行為の自由(憲法21条等)は認められるか。 3. 取締役が会社資金から政治寄附を行うことは、取締役の忠実義務(旧商法254条の2)に違反するか。
規範
1. 会社の権利能力は、定款所定の目的自体に限局されず、目的遂行上直接または間接に必要な行為に及ぶ。必要性は行為の客観的・抽象的性質に即して判断する。 2. 会社は社会的実在であり、社会通念上期待される社会的作用(寄附等)は、間接的に目的遂行に必要といえるため、客観的・抽象的に会社の社会的役割を果たすためになされたと認められる限り、定款の目的の範囲内である。 3. 取締役は、会社の規模、経営実績、社会的地位、寄附の相手方等を考慮し、合理的な範囲内で寄附金額等を決すべきであり、不相応に高額な寄附は忠実義務(善管注意義務)に違反する。
重要事実
鉄鋼の製造・販売を目的とするD製鉄株式会社の代表取締役らが、自由民主党に対して政治資金350万円を寄附した。これに対し、株主が、当該寄附は定款所定の目的の範囲外であり無効であること、また取締役の忠実義務に違反することを理由に、会社に代位して損害賠償を求めた。
あてはめ
1. 憲法上の参政権は自然人のみだが、法人は納税者であり政治的行為の自由(寄附の自由を含む)を性質上否定されない。政党は議会制民主主義に不可欠な要素であり、その健全な発展に協力することは社会的実在たる会社に期待される社会的作用の一環といえる。 2. 350万円という金額は、当時のD製鉄の資本金、純利益、株主配当金の額等に照らせば、会社の規模や社会的地位から見て不相応に巨額とはいえず、合理的な範囲内であると評価される。 3. したがって、本件寄附は客観的に会社の目的遂行上間接に必要な行為の範囲内にあり、不相当な支出とはいえないため、忠実義務違反も認められない。
結論
本件寄附は定款の目的の範囲内であり、取締役の忠実義務違反も認められないため、上告を棄却する。
実務上の射程
「目的の範囲」を極めて広く解釈するリーディングケースである。答案上は、会社の権利能力の有無が問われる場面で「客観的・抽象的判断」の基準を引用する。また、寄附については「社会的実在」をキーワードに「社会通念上期待される範囲」かどうかを、会社の財政規模との比較で検討する際の規範として用いる。
事件番号: 平成10(オ)920 / 裁判年月日: 平成12年10月20日 / 結論: 棄却
株式会社の取締役が商法二六五条一項の取引によって会社に損害を被らせた場合、当該取締役は、同法二六六条一項四号の責任を負う外、右取引を行うにつき故意又は過失により同法二五四条三項(民法六四四条)、商法二五四条ノ三に定める義務に違反したときには、同法二六六条一項五号の責任をも負う。