株式会社の取締役が商法二六五条一項の取引によって会社に損害を被らせた場合、当該取締役は、同法二六六条一項四号の責任を負う外、右取引を行うにつき故意又は過失により同法二五四条三項(民法六四四条)、商法二五四条ノ三に定める義務に違反したときには、同法二六六条一項五号の責任をも負う。
商法二六五条一項の取引を行うにつき同法二五四条三項(民法六四四条)、商法二五四条ノ三に定める義務に違反した取締役と同法二六六条一項五号の責任
商法254条3項,商法254条ノ3,商法265条1項,商法266条1項4号,商法266条1項5号
判旨
取締役が自己取引(商法265条1項、現会社法356条1項等)により会社に損害を与えた場合、無過失責任を定める商法266条1項4号(現会社法423条3項)のみならず、任務懈怠(善管注意義務・忠実義務違反)に帰責事由がある限り、同法同項5号(現会社法423条1項)の責任も重畳的に負う。
問題の所在(論点)
取締役が自己取引(利益相反取引)によって会社に損害を被らせた場合において、自己取引に関する特則(旧商法266条1項4号、現会社法423条3項)による責任に加え、一般的な任務懈怠責任(旧商法266条1項5号、現会社法423条1項)が重畳的に成立するか。各規定の関係性が問題となる。
規範
取締役が会社法上の自己取引(会社法356条1項等)を行い、会社に損害を生じさせた場合、当該取締役は同法423条3項に基づく責任(無過失責任)を負う。しかし、同規定は任務懈怠による損害賠償責任を一般的に定める同法423条1項の適用を排除するものではない。したがって、当該取引を行うにあたり、取締役に故意または過失による任務懈怠(善管注意義務・忠実義務違反)が認められる場合には、同法423条1項に基づく責任も重畳的に成立する。
重要事実
被告(上告人)らは、株式会社の取締役として商法265条1項に該当する自己取引(利益相反取引)を行い、その結果、会社に対して損害を与えた。原審は、被告らに対し、自己取引の無過失責任(商法266条1項4号)のみならず、任務懈怠に基づく責任(同項5号)の成立を認めた。これに対し被告らは、自己取引による損害については特則である4号の責任のみを負うべきであり、5号の責任は負わないと主張して上告した。
あてはめ
商法266条1項4号(現423条3項)は、利益相反取引という特定の類型において、会社の保護を徹底するために取締役の故意・過失を問わず賠償責任を課す旨を定めたものである。これに対し、同項5号(現423条1項)は、法令違反を含む任務懈怠一般に対する責任を定めるものである。本件取引が法令違反や善管注意義務違反を伴う場合、特則である4号の要件を満たすことは、一般規定である5号の適用を妨げる理由にはならない。したがって、故意または過失をもって義務に違反したと認められる本件においては、両責任が重畳的に成立すると解するのが相当である。
結論
取締役は、商法266条1項4号(現会社法423条3項)の責任を負うほか、故意または過失により任務懈怠が認められるときは、同項5号(現会社法423条1項)の責任をも負う。
実務上の射程
自己取引における取締役の責任について、423条3項(無過失責任)と1項(過失責任)の関係が重畳的であることを示した重要な判例である。答案作成上は、自己取引がある場合に、まず3項による無過失責任を指摘しつつ、帰責事由が認められる場合には1項の任務懈怠責任も成立し得ることに言及する形で活用する。時効期間の差異や、他の役員への求償関係を論じる際の前提として重要になる。
事件番号: 平成8(オ)270 / 裁判年月日: 平成12年7月7日 / 結論: 棄却
一 商法二六六条一項五号にいう「法令」には、取締役を名あて人とし、取締役の受任者としての義務を一般的に定める商法二五四条三項(民法六四四条)、商法二五四条ノ三の規定及び取締役がその職務遂行に際して遵守すべき義務を個別的に定める規定のほか、会社を名あて人とし、会社がその業務を行うに際して遵守すべきすべての規定が含まれる。…
事件番号: 昭和41(オ)444 / 裁判年月日: 昭和45年6月24日 / 結論: 棄却
一、会社による政治資金の寄附は、客観的、抽象的に観察して、会社の社会的役割を果たすためになされたものと認められるかぎり、会社の権利能力の範囲に属する行為である。 二、憲法三章に定める国民の権利および義務の各条項は、性質上可能なかぎり、内国の法人にも適用されるものであるから、会社は、公共の福祉に反しないかぎり、政治的行為…