一 商法二六六条一項五号にいう「法令」には、取締役を名あて人とし、取締役の受任者としての義務を一般的に定める商法二五四条三項(民法六四四条)、商法二五四条ノ三の規定及び取締役がその職務遂行に際して遵守すべき義務を個別的に定める規定のほか、会社を名あて人とし、会社がその業務を行うに際して遵守すべきすべての規定が含まれる。 二 取締役が会社をして会社がその業務を行うに際して遵守すべき規定に違反させることとなる行為をしたときは、右行為が取締役の受任者としての義務を一般的に定める規定に違反することになるか否かを問うまでもなく、商法二六六条一項五号にいう法令に違反する行為をしたときに該当する。 三 複数の株主が共同して追行する株主代表訴訟において、共同訴訟人である株主の一部の者が上訴をした場合、上訴をしなかった者は、上訴人にはならない。 (一、二につき補足意見がある。)
一 商法二六六条一項五号にいう「法令」の意義 二 会社がその業務を行うに際して遵守すべき規定に会社をして違反させることとなる取締役の行為と商法二六六条一項五号にいう法令違反行為 三 複数の株主が共同して追行する株主代表訴訟において共同訴訟人の一部の者が上訴をした場合に上訴をしなかった者の上訴審における地位
商法266条1項5号・商法267条 民訴法40条1項
判旨
旧商法266条1項5号(現会社法423条1項)にいう「法令」には、取締役を名宛人とする規定のみならず、会社を名宛人とする規定も含まれ、これに違反した取締役は任務懈怠の有無を問わず同号の責任を負うが、その認容には当該違反行為につき取締役に故意または過失が必要である。
問題の所在(論点)
会社を名宛人とする独占禁止法19条への違反が、旧商法266条1項5号(現会社法423条1項)にいう「法令」違反に含まれるか。また、取締役が責任を負うための帰責事由(過失)の要否とその判断基準が問題となる。
規範
1. 会社法423条1項(旧商法266条1項5号)の「法令」には、取締役を名宛人とする規定(善管注意義務等)のほか、会社を名宛人とするすべての規定(独占禁止法等)も含まれる。会社が法令を遵守すべき以上、会社に法令を遵守させることは取締役の職務上の義務に属するからである。 2. 取締役が会社に法令違反をさせる行為をした場合、それ自体が「法令に違反する行為」に該当し、別途「任務懈怠(善管注意義務違反)」の有無を問うまでもなく損害賠償責任の対象となる。 3. ただし、同条の責任を負うためには、当該法令違反行為について取締役に故意または過失があることを要する。
事件番号: 平成10(オ)920 / 裁判年月日: 平成12年10月20日 / 結論: 棄却
株式会社の取締役が商法二六五条一項の取引によって会社に損害を被らせた場合、当該取締役は、同法二六六条一項四号の責任を負う外、右取引を行うにつき故意又は過失により同法二五四条三項(民法六四四条)、商法二五四条ノ三に定める義務に違反したときには、同法二六六条一項五号の責任をも負う。
重要事実
証券会社Dの代表取締役ら(被上告人)は、大口顧客E放送との取引維持および主幹事証券会社の地位喪失を回避するため、Eに生じた営業特金の損失約3.6億円を補填することを決定した。当時、大蔵省通達により損失補填の自粛が求められていたが、被上告人らは違法性の検討を専門家に行わずに実施した。後に、この補填行為が独占禁止法19条(不公正な取引方法)に違反すると認定されたため、株主である上告人らが、会社に法令違反をさせたとして取締役の責任を追及する代表訴訟を提起した。
あてはめ
1. 独占禁止法19条は事業者が不公正な取引方法を用いることを禁止しており、会社が遵守すべき規定であるから、同条違反は「法令」違反に該当する。 2. 帰責事由についてみるに、本件損失補填当時の平成2年3月時点では、関係当局や公正取引委員会においても、証券取引に伴う損失補填が独占禁止法に違反するとの見解は示されていなかった。被上告人らは証券取引法や通達への違反には関心を払っていたが、独禁法違反については思い至らなかった点にやむを得ない事情がある。 3. したがって、当該行為が独禁法に違反することの認識を欠いたことにつき、取締役に過失があったとは認められない。
結論
損失補填行為は独占禁止法19条に違反し「法令」違反に該当するが、当時の状況から取締役に過失が認められないため、損害賠償責任を負わない。
実務上の射程
会社法423条1項の「法令」の範囲を広汎に認めた重要判例である。答案上は、まず「法令」違反の成否を論じ、次に「過失」の段階で、経営判断の当時の状況(行政指導や専門家の意見等)に照らして、法令違反を予見・回避し得たかを論じる。なお、河合補足意見にある損益相殺や過失相殺の議論も、実務上・答案上の調整手段として有用である。
事件番号: 昭和39(オ)244 / 裁判年月日: 昭和42年3月7日 / 結論: 棄却
甲株式会社の代表取締役乙が原判示の事情(原判決理由参照)のもとで丙から金銭を奪取した場合には、乙は、商法第二六六条ノ三第一項の規定により、丙に対してその被つた損害の賠償をする義務を負う。