一 甲会社が同社のすべての発行済み株式を有する乙会社の株式を取得することは、商法(昭和五六年法律第七四号による改正前のもの)二一〇条にいう自己株式の取得に当たる。 二 甲会社が同社のすべての発行済み株式を有する乙会社の指示により同社の株式を売買して買入価格と売渡価格の差額に相当する損失を被った場合、乙会社の取締役は、特段の事情のない限り、その全額を乙会社に生じた損害として、賠償の責めに任ずる。
一 甲会社が同社のすべての発行済み株式を有する乙会社の株式を取得することと商法(昭和五六年法律第七四号による改正前のもの)二一〇条 二 甲会社が同社のすべての発行済み株式を有する乙会社の株式の売買により損失を被った場合と乙会社に生じる損害
商法(昭和56年法律第74号による改正前のもの)210条,商法254条3項,商法266条1項5号,民法415条,民法644条
判旨
完全子会社による親会社株式の取得は、自己株式取得と同様の弊害を招き、法規制を潜脱するおそれがあるため、無償取得などの特段の事情がない限り、商法上の自己株式取得禁止の規定に違反して無効である。
問題の所在(論点)
100%子会社による親会社株式の取得は、商法210条(当時)の自己株式取得禁止の規定に抵触し無効となるか。また、子会社に生じた損失を親会社の損害と認めることができるか。
規範
子会社が親会社(発行済み株式の全部を保有する会社)の株式を取得することは、以下の理由から、当時の商法210条(現行会社法135条1項参照)が定める除外事由がある場合や、無償取得などの「特段の事情」がある場合を除き、同条により禁止される。①子会社による取得は、親会社が自社株を取得する場合と同様の弊害(資本充実を害する等)を生じるおそれがある。②これを禁止しないと、子会社を利用した同条の規制潜脱が可能となるためである。
重要事実
事件番号: 平成10(オ)920 / 裁判年月日: 平成12年10月20日 / 結論: 棄却
株式会社の取締役が商法二六五条一項の取引によって会社に損害を被らせた場合、当該取締役は、同法二六六条一項四号の責任を負う外、右取引を行うにつき故意又は過失により同法二五四条三項(民法六四四条)、商法二五四条ノ三に定める義務に違反したときには、同法二六六条一項五号の責任をも負う。
D鉱山(親会社)は、その全株式を保有する完全子会社Eに対し、第三者Fが所有するD鉱山株式(本件株式)を買い取るよう指示した。Eは指示に従い、Fから本件株式を82億1500万円で購入し、その後、D鉱山の関連会社に46億6340万円で転売した。その結果、Eには約35億5千万円の差損が生じた。この取引をめぐり、子会社による親会社株式の取得が自己株式取得禁止規定に違反するか、また親会社に損害が生じたといえるかが争われた。
あてはめ
まず、EはD鉱山の完全子会社であり、D鉱山がEを利用して自己の株式を取得させることは、実質的にD鉱山自身が自己株式を取得するのと同等の弊害をもたらす。したがって、本件取得は「特段の事情」がない限り商法210条違反として許されない。次に、損害について検討すると、完全子会社Eにおいて本件株式の売買により資産が約35億5千万円減少したことは、その全株式を有する親会社D鉱山にとって同額の資産減少を来したことを意味する。ゆえに、子会社における損失と親会社の損害との間には相当因果関係が認められ、親会社自身の損害として肯定される。
結論
完全子会社による親会社株式の取得は、特段の事情がない限り無効である。本件では、子会社に生じた差損分について、親会社であるD鉱山に同額の損害が生じたと認められる。
実務上の射程
現行会社法135条1項(子会社による親会社株式の取得禁止)の趣旨を説明する際の根拠となる。また、完全親子会社間における資産の流出が、法人格を跨いで親会社の損害として構成されうる点について、損害論や任務懈怠責任(423条1項)の文脈で活用できる。
事件番号: 昭和41(オ)444 / 裁判年月日: 昭和45年6月24日 / 結論: 棄却
一、会社による政治資金の寄附は、客観的、抽象的に観察して、会社の社会的役割を果たすためになされたものと認められるかぎり、会社の権利能力の範囲に属する行為である。 二、憲法三章に定める国民の権利および義務の各条項は、性質上可能なかぎり、内国の法人にも適用されるものであるから、会社は、公共の福祉に反しないかぎり、政治的行為…
事件番号: 平成8(オ)270 / 裁判年月日: 平成12年7月7日 / 結論: 棄却
一 商法二六六条一項五号にいう「法令」には、取締役を名あて人とし、取締役の受任者としての義務を一般的に定める商法二五四条三項(民法六四四条)、商法二五四条ノ三の規定及び取締役がその職務遂行に際して遵守すべき義務を個別的に定める規定のほか、会社を名あて人とし、会社がその業務を行うに際して遵守すべきすべての規定が含まれる。…