登記申請権者の申請に基づかないで不実の商業登記がされた場合には、登記申請権者が不実の登記の実現に加功し又は不実の登記の存在が判明しているのにその是正措置をとることなくこれを放置するなど、右登記を登記申請権者の申請に基づく登記と同視するのを相当とするような特段の事情がない限り、商法一四条は適用されない。
登記申請権者の申請に基づかないでされた不実の商業登記と商法一四条の適用の有無
商法14条
判旨
不実の登記が登記申請権者以外の者によってされた場合、申請権者が登記の実現に加功し、又は不実登記を放置するなど、自らの申請と同視できる特段の事情がない限り、商法9条2項(旧14条)の責任を負わない。
問題の所在(論点)
代表権のない取締役が会社名義を冒用して不実の登記を行った場合、会社は商法9条2項(旧14条)により、善意の第三者に対して登記が不実であることを対抗できなくなるか。すなわち、他人による不実登記と「不実の登記をした者」の意義が問題となる。
規範
商法9条2項(旧14条)の適用には、原則として登記自体が申請権者の申請に基づくことが必要である。もっとも、申請権者が自ら申請せずとも、①何らかの形で当該登記の実現に加功した場合、又は②不実登記の存在を知りながら是正措置をとらず放置した場合など、当該登記を申請権者の申請と同視するのを相当とする「特段の事情」がある場合には、例外的に同条を類推適用して責任を課すべきである。
重要事実
上告会社(被告)の代表取締役Eが死亡した後、代表権のない単なる取締役Dが、自己を代表取締役に選任した旨の虚偽の議事録を作成し、会社を代表して不実の代表取締役就任登記を行った。Dは上告会社の代表者として本件不動産を被上告人(原告)に売却したが、会社側はDに代表権がないことを理由にその効力を争った。
あてはめ
本件登記は、代表権のない取締役Dが会社代表者名義を冒用して行った無効な申請に基づくものであり、上告会社の申請に基づく登記とはいえない。上告会社に責任を負わせるには、Dによる登記の作出に会社側が加功した事実や、不実登記を知りながら放置した事実など、会社の申請と同視できる「特段の事情」の存否を検討すべきであるが、原審はこれを確認せずに同条を適用している。
結論
特段の事情がない限り、会社に商法9条2項の責任を肯定することはできない。原審に審理を差し戻す。
実務上の射程
他人(無権限者)が勝手に行った登記についても、権利外観理論に基づき責任を問い得るための「特段の事情(加功・放置)」の枠組みを提示した重要判例である。答案上は、まず「自己の申請」ではないことを確認した上で、帰責性の代替としてこの「特段の事情」の有無を事案の具体的事実から検討する際に用いる。
事件番号: 昭和44(オ)477 / 裁判年月日: 昭和44年9月2日 / 結論: 棄却
株式会社は、法令がとくに取締役会の決議事項であると定めたものを除いて、取締役会に属する業務執行に関する意思決定の権限を、定款をもつて、代表取締役に委任することができる。
事件番号: 昭和34(オ)726 / 裁判年月日: 昭和37年9月14日 / 結論: 破棄差戻
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