他の共有者に対してなされた共有持分の放棄の意思表示が、右共有者との通謀による虚偽のものであるときは、右意思表示については、民法第九四条が類推適用される。
共有持分の放棄と民法第九四条
民法94条,民法255条
判旨
共有持分権の放棄が他の共有者に対する意思表示によってなされた場合、当該放棄につき通謀虚偽表示がなされたときは、民法94条を類推適用すべきである。
問題の所在(論点)
相手方を必要としない単独行為の性質を有する「共有持分権の放棄」が、特定の共有者に対してなされた場合において、民法94条(通謀虚偽表示)を適用または類推適用することができるか。
規範
共有持分権の放棄は、本来は相手方を必要としない単独行為であるが、直接利益を受ける他の共有者に対する意思表示によっても行うことができる。この場合において、相手方である共有者と通謀して虚偽の意思表示がなされたときは、民法94条を類推適用すべきである。
重要事実
上告人(原告)らが、共有持分権の放棄の有効性を争った事案である。判決文からは詳細な事実関係は不明であるが、共有者間において共有持分権を放棄する旨の意思表示がなされ、それが他者(第三者等)との関係で虚偽の意思表示(通謀虚偽表示)にあたるかどうかが争点となったものと推察される。
事件番号: 昭和42(オ)524 / 裁判年月日: 昭和43年11月15日 / 結論: 棄却
部落民全員が、その総有に属する土地について、入会権者として登記の必要に迫られ、単に登記の便宜から、右部落民の一部の者のために売買による所有権移転登記を経由した場合には、民法第九四条第二項の適用または類推適用がない。
あてはめ
判旨は、共有持分権の放棄が「相手方を必要としない単独行為」であるという本来の性質を認めつつ、実態として「直接利益を受ける他の共有者に対する意思表示」という形式をとり得ることに注目した。このように相手方との合意(通謀)が介在し得る態様で放棄がなされた以上、外形と真実が合致しない虚偽の外観を共謀して作出した場合には、虚偽表示の法理による規律を及ぼすのが相当であると判断した。
結論
他の共有者に対する意思表示による持分放棄が虚偽である場合、民法94条が類推適用されるため、その放棄は無効となる(ただし、善意の第三者には対抗できない)。
実務上の射程
単独行為全般に民法94条が適用されるわけではないが、本判決により「相手方のある単独行為」や、実態として相手方への意思表示により行われる権利放棄については、同条類推適用の余地が認められた。答案上では、権利放棄が特定の者との通謀に基づき、不当に債権者からの差押えを免れる等の目的でなされた場合の構成として活用できる。
事件番号: 昭和41(オ)1097 / 裁判年月日: 昭和42年6月6日 / 結論: 棄却
不動産の所有権が順次甲、乙、丙と譲渡された場合に、甲が乙に対し所有権移転登記をする意思で、登記申請書類を交付していたときは、甲の右登記申請意思は、丙が右書類を利用して甲から丙に直接所有権移転登記をすることを無効たらしめるものではない。
事件番号: 昭和42(オ)1391 / 裁判年月日: 昭和45年12月24日 / 結論: 破棄差戻
無権代理人甲が乙の代理人と称して丙と締結した抵当権設定契約を乙が追認したのち、甲が乙の代理人と称して丁と抵当権設定契約を締結した場合において、丁が甲に乙を代理して右抵当権設定契約をする権限があると信ずべき正当の事由を有するときは、乙は、民法一一〇条および一一二条の類推適用により、甲のした抵当権設定契約につき責に任じなけ…
事件番号: 昭和37(オ)396 / 裁判年月日: 昭和40年10月12日 / 結論: 棄却
第一審判決主文に民訴法第一九四条にいう明白な誤謬がある場合、控訴裁判所が控訴棄却の判決をするにあたり判決の理由中に理由を示し主文において右誤謬を更正しても違法ではない。