平和条約が締結された結果、同条約第一四条(a)項2(1)の規定により在外資産を喪失した者は、国に対しその喪失による損害について補償を請求することはできない。
平和条約第一四条(a)項2(1)による在外資産の喪失と国に対する補償請求の許否
日本国との平和条約14条(a)項2(1),憲法29条3項
判旨
平和条約による在外資産の喪失は、敗戦という非常事態に基づく戦争損害であり、国民がひとしく受忍すべき犠牲であるから、憲法29条3項の補償の対象外である。
問題の所在(論点)
平和条約により在外資産を喪失したことが、憲法29条3項にいう「公共のために用ひる」場合に該当し、国に対して直接の損失補償を請求できる根拠となるか。
規範
憲法29条3項の「正当な補償」は、特定の個人が公共の利益のために特別な犠牲を払った場合に認められる。しかし、戦争中から戦後占領期にかけての国の存亡に関わる非常事態において生じた「戦争損害」は、国民が等しく受忍すべき犠牲であり、同条項の予想しないところである。
重要事実
日本国は、第二次世界大戦の敗戦に伴いサンフランシスコ平和条約を締結した。同条約14条(a)に基づき、連合国は日本国民の在外資産を処分する権利を取得し、実際にこれらを賠償に充当した。これにより資産を喪失した上告人らが、国による公権力行使と同視できるとして、憲法29条3項に基づき直接補償を求めて提訴した。
あてはめ
まず、在外資産の喪失は、連合国側の主権に基づき敵産として接収・処分されたものであり、日本国が自主的な公権力行使として賠償に充当したものではない。日本国は外交保護権を行使しないことを約したにすぎない。次に、平和条約の締結は主権回復のための特殊異例な状態下で行われた不可避の選択であった。このような損害は、国の存亡に関わる非常事態において全国民が等しく受忍すべき「戦争損害」の一種といえる。したがって、特定の個人に対する「特別な犠牲」とは解されない。
結論
在外資産の喪失による損害は戦争損害として受忍すべきものであり、憲法29条3項を適用してその補償を求めることはできない。
実務上の射程
戦争損害(戦争犠牲)については「一般に受忍すべきもの」として憲法29条3項の適用を否定した代表的判例。損失補償における「特別な犠牲」の有無を判断する際の境界線を示す射程を持つ。
事件番号: 昭和55(オ)1185 / 裁判年月日: 昭和57年2月5日 / 結論: 棄却
鉱業法六四条の規定によつて鉱業権の行使が制限されても、これによつて被つた損失につき憲法二九条三項を根拠としてその補償を請求することはできない。
事件番号: 平成15(オ)1895 / 裁判年月日: 平成16年11月29日 / 結論: 棄却
1 財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定(昭和40年条約第27号)の締結後,旧日本軍の軍人軍属等であったが日本国との平和条約により日本国籍を喪失した大韓民国に在住する韓国人に対して何らかの措置を講ずることなく戦傷病者戦没者遺族等援護法附則2項,恩給法9条1項3号を存置したこ…