平和条約が締結された結果、同条約一九条(a)項の規定により損害賠償請求権を喪失した者は、国に対しその喪失による損害について補償を請求することは許されない。
平和条約一九条(a)項による損害賠償請求権の喪失と国に対する補償請求の許否
日本国との平和条約19条(a)項,憲法29条3項
判旨
サンフランシスコ平和条約に基づく連合国等に対する請求権の放棄による損害は、敗戦という特殊な状況下で生じた一種の戦争損害であり、憲法29条3項の想定外であるため補償の対象とならない。
問題の所在(論点)
平和条約19条(a)項に基づき個人の損害賠償請求権を放棄したことが、憲法29条3項に基づく損失補償を必要とする「私有財産を公共のために用いる」場合に該当するか。
規範
憲法29条3項が規定する「私有財産を公共のために用いる」ことによる損失補償は、通常の公共の利益のための犠牲を想定している。しかし、敗戦という国家存亡の危機において、条約締結という特殊異例な状況下で発生した「戦争損害」とみるべきものについては、同条項の適用の余地はなく、憲法の予想しないところである。
重要事実
上告人らは、日本国との平和条約(サンフランシスコ平和条約)19条(a)項により、日本国政府が連合国及びその国民に対する請求権を放棄したことによって財産的損失を被ったと主張した。上告人らは、この放棄が憲法29条3項のいう「公共のために供したもの」にあたるとして、国に対し相当な補償を求めて提訴した。
あてはめ
本件における請求権の放棄は、在外資産の喪失(同条約14条)と同様、わが国が敗戦という極めて特殊な状況下におかれていた際に締結されたものである。イタリア平和条約等に見られるような補償規定が本条約に欠けていることも考慮すれば、この請求権放棄は敗戦に伴う「戦争損害」の一種と解される。したがって、通常の行政目的に基づく財産権の制限とは本質を異にし、憲法29条3項が予定する損失補償の枠組みを越える事象である。
結論
本件請求権の放棄による損害に対して、憲法29条3項に基づき国に補償を求めることはできない。したがって、上告人の請求は排斥される。
実務上の射程
戦争損害(戦争犠牲)については、原則として憲法29条3項の損失補償の対象外とするのが判例の確立した立場である。答案上では、損失補償の要否が問題となる場面で、本件のような「特殊異例な状況」や「戦争損害」に該当するかを検討する際の限定的な射程として引用する。
事件番号: 昭和37(オ)771 / 裁判年月日: 昭和38年9月6日 / 結論: 棄却
右に対し土地収用の場合と同一の取扱をしなければならぬ理由はない。
事件番号: 昭和49(行ツ)81 / 裁判年月日: 昭和52年2月14日
【結論(判旨の要点)】憲法29条3項に基づく損失補償は、特定の個人が公共の利益のために財産的犠牲を強いられた場合に、公平の原則に基づき、その損失を社会全体で分担するために認められるものである。 第1 事案の概要:(提示された入力テキストが判読不能な文字化け状態にあるため、本件の具体的な事案事実は判決文からは不明。ただし…