農地の買収処分に続いて売渡処分が完了した後においても、右買収処分が在村地主甲の自作地を不在地主乙の小作地と誤認してされたものであり、売渡の相手方が、当該農地について所有権移転登記を経由したが、その引渡を受けていない等判示の事実関係のもとにおいては、他に特段の事情がないかぎり、農業委員会は、前記の実体法上の違法を理由として、当該農地の買収計画および売渡計画を取り消すことができる。
農地の売渡処分完了後において農業委員会のした当該農地の買収計画お−よび売渡計画の取消処分が有効とされた事例
自作農創設特別措置法(昭和21年法律第43号)6条,自作農創設特別措置法(昭和21年法律第43号)9条,自作農創設特別措置法(昭和21年法律第43号)18条,自作農創設特別措置法(昭和21年法律第43号)20条
判旨
違法な行政処分は、不服申立期間経過後であっても、取消しによる不利益と現状維持の不利益を比較考量し、放置が公共の福祉に照らし著しく不当な場合に限り、職権で取り消すことができる。
問題の所在(論点)
不服申立期間を徒過し、形式的確定力が生じた行政処分について、行政庁が職権でこれを取り消すことの可否およびその判断基準(職権取消しの制限)。
規範
行政庁は、適法な争訟手続により処分の効力が確定した等の特段の事情がない限り、たとえ法定の不服申立期間を経過した後であっても、自らその違法または不当を認めて職権で取り消すことができる。ただし、取消しによって生ずる不利益と、処分を維持することによって生ずる不利益とを比較考量し、当該処分を放置することが公共の福祉の要請に照らし著しく不当であると認められるときに限られる。
重要事実
農業委員会は、本件農地を不在地主Eの所有と誤認し、自作農創設特別措置法に基づき買収・売渡計画を樹立した。都知事の買収・売渡を経て、上告人らが所有権登記を完了したが、実際には在村地主Fが所有し自作していたことが判明した。そこで同委員会は、不服申立期間経過後、Fからの事実上の異議申出に基づき、本件各計画の取消処分を行い、上告人らがその有効性を争った。
事件番号: 昭和28(オ)1007 / 裁判年月日: 昭和31年5月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政処分に瑕疵がある場合でも、その瑕疵が重大かつ明白でない限り、処分は当然無効とはならず、出訴期間経過後はその効力を争うことができない。住所地の判定が困難な状況下で行われた不在地主としての農地買収処分は、事後的に在村地主と判明しても当然無効には当たらない。 第1 事案の概要:上告人は、自作農創設特…
あてはめ
本件買収処分は、法定の要件に反し買収すべからざる者から農地を買収した違法なものである。農地買収は個人への重大な制約であり、他に特段の事情がない限り、旧所有者に復帰させることが公共の福祉に沿う。また、売渡を受けた上告人らは登記こそ経由しているが、現実に農地の引渡しを受けておらず、取消しにより上告人が被る不利益に比して、違法な処分により旧所有者らが被った不利益は著しく大きい。したがって、本件処分を放置することは著しく不当といえる。
結論
農業委員会による本件各計画の職権取消しは、公共の福祉の要請に照らし是認される。したがって、本件取消処分は有効である。
実務上の射程
行政法における職権取消しの一般的基準を示した重要判例である。不利益処分(買収)の取消しにより受益的状態(売渡)にある者の信頼を侵害する場面において、私人の信頼保護と適法性の回復(公共の福祉)をいかに比較考量すべきかという枠組みとして答案で活用する。
事件番号: 昭和31(オ)537 / 裁判年月日: 昭和33年2月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】臨時農地等管理令7条の2に違反して地方長官の許可を受けずになされた農地の売買契約であっても、直ちにその私法上の効力が否定されるものではなく、法律上無効とはならない。 第1 事案の概要:上告人は、昭和20年10月31日に訴外Dに対し、本件農地について再売買の予約完結の意思表示をしたと主張し、所有権の…
事件番号: 昭和39(オ)1433 / 裁判年月日: 昭和42年9月26日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】行政処分が後日取り消された場合、その効力は遡及的に失われるため、当該処分が有効であることを前提になされた代表権の否定等の判断は失当となり、当初の法主体性が維持される。 第1 事案の概要:宗教法人令による旧法人A寺の主管者Bは、宗教法人法への移行に際し、新法人E寺の規則認証を受け設立登記を了した。こ…
事件番号: 昭和37(オ)1403 / 裁判年月日: 昭和39年10月20日 / 結論: 破棄自判
自作農創設特別措置法により買収農地の売渡を受けた者が当該農地の所有権を時効取得したときは、右農地の被買収者は、その買収処分の無効確認を求める訴の利益を有しない。