一 他人の債務のため自己の所有物をいわゆる弱い譲渡担保に供した者は、右債務の消滅時効を援用することができる。 二 債務者の時効の利益の放棄は、当該債務のため自己の所有物をいわゆる弱い譲渡担保に供した者に影響を及ぼさない。
一 他人の債務のため自己の所有物をいわゆる弱い譲渡担保に供した者は右債務の消滅時効を援用することができるか 二 債務者の時効の利益の放棄は当該債務のため自己の所有物をいわゆる弱い譲渡担保に供した者に影響を及ぼすか
民法369条,民法145条,民法146条
判旨
物上保証人および譲渡担保権設定者は、被担保債権の消滅によって直接利益を受ける者に該当するため、民法145条の「当事者」として被担保債権の消滅時効を援用できる。また、債務者による時効利益の放棄は、これらの者に対しては効力を生じない。
問題の所在(論点)
他人の債務のために自己の所有物件を担保に供した者(物上保証人や譲渡担保権設定者)が、民法145条の「当事者」として、主債務の消滅時効を援用できるか。また、主債務者による時効利益の放棄は、これらの者に影響を及ぼすか。
規範
民法145条にいう時効の援用権者たる「当事者」とは、権利の時効消滅により直接利益を受ける者に限定される。他人の債務のために自己の所有物件に担保権を設定した物上保証人や譲渡担保権設定者は、被担保債権が消滅すれば担保権の負担を免れるという直接的な利益を有するため、同条の「当事者」に含まれる。また、時効利益の放棄の効果は相対的であり、主債務者が時効完成後に利益を放棄しても、物上保証人等の援用権を妨げるものではない。
重要事実
債務者D社がFに対して負担する貸金債務のため、E(上告人らの先代)は自己所有の不動産を譲渡担保に供していた。当該債務は商事債務であり、弁済期から5年の経過により消滅時効が完成した。しかし、時効完成後にD社の承継人が時効利益の放棄(債務承認)を行ったため、債権者である被上告人らが、上告人らに対して不動産の所有権移転登記手続等を求めた。上告人らは、被担保債権の消滅時効を援用してこれに応じない姿勢を示した。
事件番号: 昭和45(オ)719 / 裁判年月日: 昭和48年12月14日 / 結論: 破棄差戻
抵当不動産の譲渡を受けた第三者は、抵当権の被担保債権の消滅時効を援用することができる。
あてはめ
本件におけるEは、D社の債務のために自己所有の不動産を譲渡担保に供しており、被担保債権の消滅により直接利益を受ける点において、通常の物上保証人と異ならない。したがって、Eの承継人である上告人らは「当事者」として時効を援用しうる。また、D社の承継人が行った時効利益の放棄は相対的な効果しか持たず、物上保証人的な立場にある上告人らには影響しない。そのため、消滅時効完成により譲渡担保権は消滅し、所有権は上告人らに復帰したと評価される。
結論
物上保証人や譲渡担保権設定者は、独自に被担保債権の消滅時効を援用できる。主債務者が時効利益を放棄しても、その効力は及ばないため、被上告人らの請求は認められない。
実務上の射程
時効の援用権者の範囲に関するリーディングケースである。物上保証人が「当事者」に含まれることを明言し、旧大審院判例を変更した。答案上では、民法145条の「当事者」の定義を論じる際、利害関係の直接性を基準として物上保証人をこれに含める論拠として活用する。また、148条の相対効の原則とあわせて、債務者の承認等があっても物上保証人の援用権が奪われないことを示す際にも重要となる。
事件番号: 昭和63(オ)357 / 裁判年月日: 平成2年6月5日 / 結論: 破棄自判
売買予約に基づく所有権移転請求権保全の仮登記の経由された不動産につき抵当権の設定を受け、その登記を経由した者は、予約完結権の消滅時効を援用することができる。
事件番号: 昭和31(オ)740 / 裁判年月日: 昭和34年3月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】時効は、時効によって直接に利益を受ける者又はその承継人がこれを援用した場合、右以外の者も時効による権利の取得を主張し得る。 第1 事案の概要:上告人は、Dが取得時効を援用したこと、あるいはEその他の者が取得時効を完成させたことを前提として、自らの権利を主張した。しかし、記録上、Dが取得時効を援用し…
事件番号: 昭和28(オ)843 / 裁判年月日: 昭和30年7月5日 / 結論: 棄却
不動産の登記簿上の所有名義人は、真正の所有者に対し、その所有権の公示に協力すべき義務を有するものであるから、真正の所有者は、所有権に基き所有者名義人に対し、所有権移転登記の請求を為し得るものと解すのが相当である。
事件番号: 昭和37(オ)1410 / 裁判年月日: 昭和39年2月13日 / 結論: 棄却
所有権転移仮登記の権利者が、仮登記後所有権取得登記を経た第三者に対し、右登記の抹消登記手続を請求した場合、裁判所が、仮登記に基づく本登記手続につき承諾を命ずる判決をしても、民訴法第一八六条に違反しない。