当事者が真実夫婦として共同生活を営む意思で婚姻を約し長期にたり肉体関係を継続するなど原審判決認定の事情(原審判決理由参照)のもとにおいて、一方の当事者が正当の理由がなくこれを破棄したときは、たとえ当事者がその関係を両親兄弟に打ち明けず、世上の習慣に従つて結納をかわし、もしくは同棲していなくても、相手方は、慰藉料の請求をすることができる。
婚姻予約の不当破棄による慰藉料の請求が認められた事例。
民法第4編親族第2章婚姻1節婚姻の成立
判旨
当事者双方に真実夫婦として共同生活を営む意思が明確であれば、結納の授受や同棲といった習俗上の形式を欠く場合であっても、婚姻予約(婚約)の成立が認められる。この予約を正当な理由なく破棄した者は、相手方に物質的損害が生じていない場合でも慰謝料支払義務を負う。
問題の所在(論点)
婚姻予約(婚約)の成立において、結納の授受、同棲、または親族への公表といった習俗上の形式を備えることが必要か。また、具体的な物質的損害や社会的名誉の毀損がない場合に慰謝料請求が可能か。
規範
婚姻予約は、将来において適法な婚姻を成立させることを合意する契約である。その成立には、当事者双方が真実夫婦として共同生活を営む意思(誠実な婚姻意思)を確定的に有していることを要する。世上の習慣に基づく結納の取交わしや同棲、親族への公表といった客観的事実の存否は、意思の有無を推認する要素にはなり得るが、それ自体が婚姻予約の不可欠な成立要件ではない。
重要事実
上告人は被上告人に対して求婚し、被上告人はこれに応じて婚姻を承諾した。その後、両者は長期間にわたり肉体関係を継続した。しかし、その期間中に結納の取交わしは行われず、同棲もしていなかった。また、当事者双方はこの関係を自らの両親や兄弟などの親族に打ち明けていなかった。その後、上告人が一方的に関係を解消したため、被上告人が婚姻予約の不当破棄に基づく慰謝料を求めて提訴した。
あてはめ
本件では、被上告人が上告人の求婚に対し、真実夫婦として共同生活を営む意思で応じている。長期間の肉体関係の継続もあり、当事者双方の婚姻意思は明確であって、単なる一時的な野合私通の関係ではないと認められる。このような明確な意思がある以上、結納、同棲、親族への告知といった形式的・慣習的事実を欠いていることは、婚姻予約の成立を妨げるものではない。したがって、上告人による一方的な破棄は予約の不当破棄にあたり、精神的苦痛に対する慰謝料義務を免れない。
結論
婚姻予約は成立しており、これを不当に破棄した上告人は、被上告人に対し慰謝料支払義務を負う。社会的名誉の毀損や物質的損害の有無は、慰謝料責任の成否そのものを左右しない。
実務上の射程
婚姻予約の成立要件として「意思の合致」を重視する立場を明確にした。答案上では、婚約破棄に基づく損害賠償請求において、結納等の形式的要件を欠く事案でも、実質的な婚姻意思の確定性を具体的事実(求婚の態様、交際期間、肉体関係等)から認定する際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和38(オ)334 / 裁判年月日: 昭和38年12月20日 / 結論: 棄却
当事者がいずれも高等学校卒業直後であり、男性においてなお大学に進学して学業を継続しなければならないときに肉体関係を結ぶに至つた場合でも、将来夫婦となることを約して肉体関係を結んだものであり、その後も男性において休暇で帰省するごとに肉体関係を継続し、双方の両親も男性の大学卒業後は婚姻させてもよいとの考えで当事者間の右の関…