債権全額に対する弁済として債務者のなした供託金額が債権額に足りない場合において、債権者が債務者に対して右供託金を債権の一部に充当する旨通知し、かつ、供託所に対して右留保の意思を明らかにして還付を受けたときは、右供託金は債権の一部の弁済に充当されたものと解すべきである。
不足の弁済供託金を債権の一部弁済として受領する旨あらかじめ留保して還付を受けた場合の効力。
民法494条
判旨
債権者が、債務の一部として供託された金員を受領する際、予め反対の意思表示(留保の意思表示)を明示していた場合には、当該供託金は指定された債務の一部弁済として充当されるにとどまり、債務全額の消滅という効果は生じない。
問題の所在(論点)
債権者が供託金を一部弁済として受領する旨の留保の意思表示をして還付を受けた場合、当該供託による債務消滅の範囲はどのように解すべきか。債権全額を消滅させる効力を有するか、あるいは一部弁済にとどまるか。
規範
弁済供託において、債権者が供託金を受領するにあたり、あらかじめ留保の意思表示(一部の弁済として受領し、残余の債務の消滅を認めない旨の意思表示)を明確になした場合には、その留保した範囲においてのみ弁済の効果が生じ、全額の消滅という効力は妨げられる。
重要事実
債権者(被上告人)は、債務者(上告人)に対し、公正証書に基づく商品残代金244万7200円及びこれに対する年1割2分の遅延損害金債権を有していた。債務者が11万2000円を供託したところ、債権者は当該供託金を遅延損害金の一部に充当する旨を債務者に通知し、かつ供託所に対しても当該通知書を添付して還付申請を行うことで、あらかじめ留保の意思表示を明らかにした上で還付を受けた。
あてはめ
本件において債権者は、還付を受けるに際し、供託金を遅延損害金の一部に充当する旨を債務者に通知している。さらに、供託所に対してもその旨の通知書を添えて還付申請を行い、客観的かつ明確に留保の意思表示を外部に示している。このような事実関係の下では、債権者は全額の弁済として受領する意思がないことが明白であり、供託金の受領によって遅延損害金の一部が消滅するにとどまると解するのが相当である。
結論
本件供託金の受領は遅延損害金の一部弁済に充当されるにとどまり、その余の債務(残代金元本等)を消滅させる効果を生ずるものではない。
実務上の射程
債権者が供託を受諾する際、何ら異議を述べずに受領すれば全額弁済としての効果を認めたことになりかねないが、本判例は「留保の意思表示」を先行させることで一部受領としての法的効果を維持できることを示している。実務上、債権の一部であることを明示して還付請求を行う際の標準的な処理を肯定する射程を有する。
事件番号: 昭和40(オ)914 / 裁判年月日: 昭和42年11月2日 / 結論: 棄却
金額に争いのある債権につき、全額に対する弁済を供託原因として供託した金額が債権者の主張する額に足りないのに、債権者がその供託金を受領した場合であつても、債権者において、右供託金を受領するまで一貫して供託金額をこえる金額を請求する訴訟を維持続行していたときには、請求金額中供託金額をこえる部分については、当然留保の意思表示…