株式会社の代表取締役が自己の利益のため会社の代表者名義でなした法律行為は、相手方が右代表取締役の真意を知り、または、知りうべきものであつたときは、その効力を生じない。
代表取締役の権限濫用の行為と民法第九三条。
民法93条,商法261条
判旨
株式会社の代表取締役が自己の利益を図る目的で、表面上会社の代表者として法律行為を行った場合、相手方がその真意を知り、または知り得べきであったときは、民法93条但書の類推適用により当該行為は無効となる。
問題の所在(論点)
代表取締役が自己の利益のために代表権を濫用して法律行為を行った場合、相手方がその意図を知り、または知り得べきであったとき、当該行為の効力は会社に及ぶか。民法93条1項但書の類推適用の可否が問題となる。
規範
代表取締役がその権限の範囲内の行為をなした場合でも、自己または第三者の利益を図る目的(背任的意図)で行ったときは、代表権の濫用となる。この場合、相手方が代表取締役の真意を知り(悪意)、または過失によって知らなかった(有過失)ときは、心理留保の規定(民法93条1項但書)を類推適用し、その行為の効果は会社に帰属しない(無効)。
重要事実
上告会社(被告)の代表取締役Dが、登記簿上の代表権限を利用し、自己の個人的な利益を得る目的で、会社所有の建物を被上告会社(原告)に売却した。上告会社は、被上告会社がDの背任的意図を知りながら悪意で買い受けたものであるから、当該売買契約は無効であると主張した。原審は、代表取締役の内心の意図は会社に対する効果に影響しないとして、相手方の知情の有無を審理せずに請求を認容した。
あてはめ
本件において、Dは形式的には代表権限を有しているが、その実質は自己の利益を図るための背任的な権限濫用行為であった。原審は、このような背任的な底意は行為の効力に影響しないとしたが、それでは取引の安全を重視しすぎ、会社保護を欠くこととなる。相手方である被上告会社が、Dの真意について「知りまたは知り得べきものであったとき」には、民法93条1項但書の類推適用により、当該売買契約の効力を否定すべきである。したがって、被上告会社がDの真意を知っていたか否かの事実関係を審理する必要がある。
結論
代表権濫用の事実があり、かつ相手方が悪意または有過失である場合には、民法93条1項但書の類推適用により当該行為は無効となる。本件では相手方の予見可能性について審理を尽くさせるため、原判決を破棄し差し戻すべきである。
実務上の射程
代表権濫用に関するリーディングケース。現行法下では、代理権濫用に関する民法107条が新設されたが、代表権濫用についても同条が直接適用または類推適用されるため、本判例の示した「相手方が悪意・有過失であれば無効」という枠組みは維持されている。答案上は、まず形式的な代表権限の存在を指摘した上で、背任的意図と相手方の悪意・過失を検討し、民法107条(または93条1項但書)により無効と導く流れで用いる。
事件番号: 昭和38(オ)157 / 裁判年月日: 昭和41年3月18日 / 結論: 棄却
未登記の建物の所有者甲が、乙にその所有権を移転する意思がないのに、乙の承諾を得て、右建物について乙名義の所有権保存登記を経由したときは、民法第九四条第二項を類推適用して、甲は、乙が右建物の所有権を取得しなかつたことをもつて、善意の第三者に対抗することができないものと解すべきである。
事件番号: 昭和38(オ)1111 / 裁判年月日: 昭和39年5月23日 / 結論: 棄却
債務額一三七万円の約四・五倍にあたる六〇九万五千円余の価額を有する土地および建物を目的とする代物弁済契約であつても、相手方の窮迫、軽卒に乗じ不当な利益を獲得する目的でしたものと認められない以上、右代物弁済契約は、民法第九〇条により無効であるとはいえない。