登記簿上の現所有者名義人は、前所有名義人から不動産所有権を取得したと主張する場合には、前所有名義人に対し、登記の推定力を援用し得ない。
登記簿上の現所有者名義人が前所有名義人から不動産所有権を取得したと主張する場合現所有名義人は登記の推定力を援用しうるか。
民法188条
判旨
不動産登記名義人は所有者であると推定されるが、前所有名義人が現所有名義人に対し所有権移転の効力を争う場合には右の推定は及ばず、現名義人が取得原因を立証すべきである。また、登記済証は私文書部分と公文書部分が結合したものであり、私文書部分の真正が当然に公的に証明されるわけではない。
問題の所在(論点)
1. 直接の前所有名義人が所有権移転の効力を争う場合、登記による所有権の推定が働くか(立証責任の所在)。 2. 登記官吏の記入がある売渡証書(登記済証)は、その全体が公文書として成立の真正を推定されるか。 3. 短期取得時効の要件である占有開始時の「無過失」の判断。
規範
1. 不動産登記がある場合、一般にはその名義人は反証のない限り当該不動産を所有するものと推定される(権利適法推定)。しかし、直接の前所有名義人が現所有名義人に対し所有権移転の有効性を争う場面では、右の権利推定は及ばない。したがって、現名義人が前名義人から所有権を取得した原因事実について立証責任を負う。 2. 売渡証書に登記官吏の登記済の記入が結合した証書(いわゆる登記済証)であっても、売渡証書自体は私文書の性質を失わず、民訴法上の公文書としての成立の真正の推定(現228条2項)は当該部分には及ばない。
重要事実
上告人(現所有名義人)は、被上告人(直接の前所有名義人)から本件土地を買い受けたと主張し、所有権移転登記を完了していた。これに対し被上告人が売買の事実を争ったため、上告人は「乙第2号証の1」として、登記官吏による登記済の記入がある売渡証書を提出した。原審は、当該証書の私文書部分の真正を認めるに足りる証拠がなく、また上告人の占有開始における無過失も認められないとして、上告人の請求を退けたため、上告人が上告した。
事件番号: 昭和32(オ)1208 / 裁判年月日: 昭和36年4月28日 / 結論: 棄却
不動産につき甲、乙、丙と順次所有権が移転したものとして順次所有権移転登記がなされた場合において、各所有権移転行為が無効であるときは、甲が乙、丙に対し各所有権移転登記の抹消登記請求権を有するほか、乙もまた丙に対し所有権移転登記の抹消登記請求権を有する。
あてはめ
1. 本件は、現登記名義人である上告人と、その直接の前名義人である被上告人との間で移転原因(売買)の存否が争われている事案である。この場合、登記の権利推定力は及ばないため、上告人が売買成立という取得原因を立証しなければならない。 2. 上告人が提出した乙第2号証の1は、私文書である売渡証書と公務員が作成した登記済の記入部分が結合したものに過ぎない。売渡証書部分は依然として私文書であり、当然に真正に成立したものと扱うことはできない。原審がその真正を認めず、売買の成立を否定した判断に誤りはない。 3. 取得時効についても、提出された全証拠を検討しても占有開始時に無過失であったと認めるに足りないとした原審の判断は、経験則に反せず正当である。
結論
直接の前名義人との間では登記の権利推定力は働かず、現名義人が取得原因を立証すべきである。また登記済証の私文書部分は当然には真正を推定されない。よって、上告は棄却される。
実務上の射程
司法試験では「登記の推定力」が論点となる際、相手方が「誰か」によって立証責任を分ける基準として重要。第三者に対しては推定力が及ぶが、直接の契約当事者(前所有者)間では推定力が働かないため、登記があることのみをもって所有権を基礎づけることはできないという論理構成に用いる。また、民事訴訟法における公文書・私文書の区別の実例としても活用可能。
事件番号: 昭和35(オ)1470 / 裁判年月日: 昭和38年1月22日 / 結論: 棄却
右登記を無効として抹消を求めることはできない。(昭和三〇年(オ)第六三二号同三三年五月九日第二小法廷判決、民集一二巻九八九頁参照)。
事件番号: 昭和32(オ)748 / 裁判年月日: 昭和35年2月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】建物の所有権取得に関する当事者双方の主張事実が証拠上認められない場合、公簿(登記簿等)の記載をもって一応真実の権利状態に適合するものと推定し、事実認定を行うことは適法である。 第1 事案の概要:本件家屋の所有権取得をめぐり、原告・被告双方が自己の所有権を主張したが、原審において双方の主張する取得原…
事件番号: 昭和35(オ)1299 / 裁判年月日: 昭和38年10月8日 / 結論: その他
建物所有権移転請求権保全の仮登記権利は、本登記をなすに必要な要件を具備した場合でも、本登記を経由しないかぎり、登記の欠缺を主張しうる第三者に対し該建物の明渡を求めることは許されない。