賃貸借の目的たる家屋の所有権を取得して賃貸人となつた者は、旧所有者と賃借人との間に存した転貸許容の特約をも承継する。
転貸許容の特約と借家法第一条第一項の適用。
借家法1条1項,民法612条
判旨
建物の賃貸借において、旧所有者と賃借人間で合意された転貸許容の特約は、建物の新所有者が賃貸人の地位を承継する際、特約の登記がなくとも当然に新所有者に承継される。
問題の所在(論点)
賃貸借契約の当事者間で合意された「転貸許容の特約」が、建物の譲渡に伴い賃貸人の地位が承継された場合に、登記なくして新所有者に対抗できるか(承継の範囲に含まれるか)。
規範
借家法1条1項(現行の借地借家法31条)の規定は、建物所有権の取得者が旧所有者たる賃貸人の地位を承継することを明らかにしている。この規定の趣旨は、旧所有者と賃借人間の賃貸借契約から生じた一切の権利義務が包括的に新所有者に承継されることを包含する。
重要事実
建物所有者Dの代理人Eは、賃借人Fとの間で賃貸借契約を締結する際、建物の階下部分を不特定の第三者に転貸することを暗黙に承諾(転貸許容の特約)していた。その後、本件建物の所有権がDから上告人(新所有者)に移転し、上告人は賃貸人の地位を承継した。上告人は、当該転貸許容の特約は登記がない限り新所有者に対抗できないと主張し、無断転貸を理由に賃貸借の解除等を求めて争った。
あてはめ
借家法上の対抗要件(建物の引き渡し等)を備えた賃貸借において、新所有者が賃貸人の地位を承継する場合、その承継は契約上の地位の包括的な承継である。転貸を許容する特約もまた、賃貸借契約の内容をなす権利義務の一つである。したがって、旧所有者との間で有効に成立していた転貸許容の合意は、特約の登記の有無にかかわらず、当然に新所有者に承継される。本件において、前所有者の代理人と賃借人間で暗黙の転貸許容があった以上、新所有者である上告人もその義務を免れない。
結論
転貸許容の特約は新所有者に承継されるため、上告人は無断転貸を理由とした解除を主張することはできず、上告を棄却する。
実務上の射程
賃貸人の地位の承継に伴い、敷金返還債務のみならず、賃貸借契約に付随する各種特約(転貸許容、修繕義務の特則、更新料合意等)も原則として承継されるという「包括承継説」を裏付ける判例として、答案上活用できる。
事件番号: 昭和35(オ)903 / 裁判年月日: 昭和36年2月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃借人が賃貸人の承諾を得ずに建物を転貸した場合、たとえ賃借権自体が新所有者に対抗しうるものであっても、転借人は新所有者に対して転借権を対抗することができない。 第1 事案の概要:上告人は、建物の賃借人Dから本件建物を転借したが、その際、元の賃貸人Eの承諾を得ていなかった。その後、被上告人が競売(競…