共同債権者甲乙と債務者丙との間に、甲に弁済受領の権限を認めない旨の特約をしている場合でも、丙が甲に対してなした弁済は、当該債権の弁済としてその効力を有する。
共同債権者の一人に弁済受領の権限を認めない特約がある場合にその者になされた弁済の効力。
民法479条
判旨
債権者が複数存在する場合に特定の一人に対して弁済受領権を認めない旨の特約があっても、債務者が当該債権者に対して行った弁済は、民法479条(現478条)の趣旨に鑑み、有効な弁済としての効力を有する。
問題の所在(論点)
債権者が複数ある場合において、特定の一人に受領権限を認めない旨の特約があるとき、その者への弁済が有効となるか(旧民法479条、現478条の類推適用の可否)。
規範
債権者が複数ある場合に、そのうちの一人に弁済受領権を認めない旨の特約をすることは有効であるが、その特約によって当該債権者が債権者の地位そのものを失うわけではない。したがって、債務者が受領権限のない債権者に対して弁済した場合であっても、民法479条(旧法)の趣旨により、その弁済は有効となる。
重要事実
本件では、被上告人らが請負代金債務について、上告人とともに債権者であったDに対し、金員を弁済として手交した。これに対し上告人側は、Dには弁済を受領する権限を認めないとする特約が存在したと主張し、Dへの支払は有効な弁済にならないと争った。
あてはめ
Dは特約により受領権限が制限されていた可能性がある。しかし、Dは依然として債権者の一人としての地位を有している。被上告人らが債権者であるDに対して行った金員の提供は、債務の消滅を目指す弁済としての外形を備えている。そうであれば、受領権限の有無にかかわらず、債権者の地位にある者に対して行われた弁済は、民法479条(現478条)の趣旨である取引の安全確保の観点から、有効な弁済と評価されるべきである。特約違反については別途、債務者の責任問題が生じ得るにすぎない。
結論
Dへの弁済は有効であり、被上告人らの債務は消滅する。
実務上の射程
準占有者(現:受領権限があるとの外観を有する者)への弁済の規定を、形式上の権利者ではあるが受領権限が制限されている者への弁済に類推適用した事案。答案上は、債権者である以上は「受領権限があるとの外観」は極めて強固であり、特約を知らない債務者を保護すべき場面で活用できる。ただし、現在の478条の文言上、善意無過失の要件が必要になる点に注意を要する。
事件番号: 昭和35(オ)70 / 裁判年月日: 昭和36年7月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】債務全額の弁済としてなされた供託に対し、債権者が一部弁済として受領する旨の異議を留保したときは、債権者は残額の請求を妨げられず、その留保の意思表示の相手方は供託所であっても供託者であってもその効力に変わりはない。 第1 事案の概要:債権者(被上告人)と債務者(上告人)との間で債務金額に争いがあった…