民法第一一〇条による本人の責任は、いわゆる正当の理由が本人の過失によつて生じたことを要件とするものではない。
民法第一一〇条の適用と本人の過失の要否。
民法110条
判旨
民法110条に基づく表見代理が成立するためには、本人の過失は要件とされない。したがって、本人が無過失であっても、権限外の行為について表見代理の責任を免れることはできない。
問題の所在(論点)
民法110条の権限外の行為の表見代理が成立するために、相手方の正当な理由に加え、本人に過失があることが必要か。
規範
民法110条による表見代理の成立において、本人に帰責事由としての過失があることは要件ではない。相手方が代理人の権限があると信ずべき正当な理由を有している限り、本人の過失の有無を問わず、本人はその責任を負う。
重要事実
上告人(本人)は、代理人がその権限を超えて行った行為について、民法110条の表見代理の責任を追及された。これに対し、上告人は、自身に過失がなかったことを理由に表見代理の成立を否定し、責任を免れるべきであると主張して上告した。なお、具体的な代理権授与の経緯や権限外の行為の内容等の詳細は、本判決文からは不明である。
あてはめ
事件番号: 昭和32(オ)619 / 裁判年月日: 昭和34年12月4日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法110条にいう「正当の理由」とは、第三者(相手方)において代理人に権限があると信ずるにつき過失がないことを意味し、過失がある場合には表見代理は成立しない。 第1 事案の概要:上告人(相手方)は、代理権を欠く者との間で取引を行ったが、原審において、当該代理人に権限があると信ずるにつき上告人に過失…
民法110条の規定は、外観信頼を保護し取引の安全を図る趣旨であり、本人の過失を明文の要件としていない。本件において、上告人は無過失を主張するが、判例の趣旨に照らせば、同条の責任は本人の過失の有無に依存するものではない。したがって、相手方に正当な理由があるなど同条の要件を満たす以上、本人が無過失であることを理由に責任を免れることはできないと解される。
結論
民法110条の成立に本人の過失は不要である。したがって、上告人が無過失であったとしても、表見代理の責任を免れることはできない。
実務上の射程
民法110条の成立要件を論じる際、本人の過失の要否を問う論点に対して本判決を引用する。答案上は、本人の帰責性は「基本代理権を付与したこと」自体に求められ、別途過失という主観的態様までは不要であることを簡潔に述べる際に有用である。
事件番号: 昭和30(オ)962 / 裁判年月日: 昭和32年11月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法110条の表見代理が成立するためには、行為当時に基本代理権が存在していることが必要であり、基本代理権を全く有しない者が行った純然たる無権代理行為について同条を適用または類推適用することはできない。 第1 事案の概要:上告人(買主)は、被上告人の代理人と称する訴外Dから本件土地・家屋を買い受けた…
事件番号: 昭和29(オ)231 / 裁判年月日: 昭和30年1月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法110条の「正当な理由」が認められるためには、相手方が無権代理人に代理権があると信じたことにつき、取引上必要とされる注意を欠かないことが必要である。 第1 事案の概要:上告人Aは、被上告人の代理人と称するDとの間で、被上告人所有の土地建物を買い受ける売買契約を締結した。しかし、Dには当該売却の…
事件番号: 昭和33(オ)251 / 裁判年月日: 昭和36年1月17日 / 結論: 棄却
病身の夫が家族との不和と療養の関係からさして遠方でない土地に別居中、妻が無断で夫の印章を偽造し、夫の代理名義で夫所有の土地家屋を代金三一〇万円で売却した場合、交渉の行われた場所が当該の家屋であり、家族の収入は妻名義でなす貸間収入で賄われており、成人した子供達が交渉の際同席する等、一応妻に代理権があると信じさせるような事…
事件番号: 昭和32(オ)723 / 裁判年月日: 昭和34年11月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法110条の表見代理における「正当な理由」の存否は、代理人の年齢や家族関係、取引相手との距離等の具体的事情を総合考慮して判断される。本件では、80歳の父が子の代理人として振る舞った際、相手方が近隣居住者であっても直ちに過失があるとはいえず、代理権があると信じるに足りる正当な理由が認められた。 第…