数年来使用されないで取り毀された倉庫用建物が、当時すでに六〇余年を経過し、屋根瓦が落ち雨漏の個所が多く、周囲の壁は崩壊して大穴があき、柱、板類、土台等は腐蝕して再使用にたえるものはほとんどなく、修理するとしても新築に近い大改造を要し、経済的には新築する方が有利である程で、取毀し後の材料の大部分は風呂屋の燃料として安く売りさばかれた等の情況にあつたときは、右建物は借地法第二条第一項にいわゆる朽廃の域に達していたものと解するのが相当である。
借地法第二条第一項にいわゆる建物の朽廃にあたるとされた事例
借地法2条1項
判旨
借地法2条1項(旧法)の「朽廃」とは、建物が単に経済的価値を失うだけでなく、物理的・全体的観察により建物としての効用を喪失した状態を指す。
問題の所在(論点)
借地法2条1項但書(旧法)の「朽廃」の判断基準において、経済的理由のみならず、建物の物理的状態や効用喪失の有無をどのように考慮すべきか。
規範
借地法2条1項但書(旧法)にいう建物の「朽廃」とは、単に経済的理由のみによって判断されるべきものではない。建物の取毀直前の状態に対する全体的観察に基づき、建物がもはやその効用を失ったと認められる客観的な状態を指す。
重要事実
上告人(借地人)が所有していた本件建物につき、被上告人(地主)が借地権の消滅を主張した事案。原審は、証拠に基づき本件建物の取毀直前の状態を認定し、建物としての全体的観察から効用を喪失していると判断して、朽廃を認めた。これに対し上告人が、経済的理由のみによる朽廃の断定は違法であるとして上告した。
あてはめ
本件において、原審は単に経済的理由のみをもって朽廃を断定したのではなく、建物の取毀直前の具体的状態を詳細に認定している。この認定事実に照らし、全体的観察を行うと、本件建物は建物としての本来の効用を失うに至っている。したがって、本件建物は借地法2条1項但書にいう朽廃の域に達していると評価するのが相当である。
結論
本件建物は朽廃しており、借地権は消滅する。原判決に違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
旧借地法下の判例ではあるが、建物の存続期間の終期に関する「朽廃」の概念を画した。現行の借地借家法では「朽廃」による当然消滅の規定は廃止されているが、法定更新や解約の正当事由(同法6条)における建物の老朽化・有効利用の評価において、本判決の「全体的観察による効用喪失」という視点は今なお実務上の参考となる。
事件番号: 昭和30(オ)750 / 裁判年月日: 昭和33年10月17日 / 結論: 棄却
木造建物が、その柱、桁、屋根の小屋組などの要部に多少の腐蝕個所がみられても、こちらの部分の構造にもとずく自らの力で屋根を支えて独立に地上に存立し、内部への出入に危険を感じさせることもないなど原審認定の状況(原判決理由参照)にあるときは、右建物は未だ借地法第一七条第一項但書にいう朽廃の程度に達しないものと解すべきである。
事件番号: 昭和42(オ)259 / 裁判年月日: 昭和42年7月18日 / 結論: 棄却
建物が部分的にみるときは、その骨格部分ともいうべき土台、柱脚部及び外廻り壁下地板、屋根裏下地板等に相当甚しい損耗があり、内部造作材も老化しているが、同時に建物全体としてみるときは自力によつて屋根を支え独立して地上に存在し、その内部への人の出入りに危険を感ぜしめることがないなど原判示の事情の如く、いまだ建物としての社会的…