一個の債権の数量的な一部についてのみ判決を求める旨明示して訴の提起があつた場合、訴提起による消滅時効中断の効力は、その一部の範囲においてのみ生じ残部におよばない。
債権の一部についてのみ判決を求める旨明示した訴の提起と消滅時効中断の範囲。
民法147条,民訴法235条
判旨
数量的一部であることを明示して訴えが提起された場合、消滅時効中断の効力は訴求された一部の範囲でのみ生じ、残部には及ばない。
問題の所在(論点)
数量的一部であることを明示して提起された一部請求の訴えにおいて、裁判上の請求(民法147条1号、現147条1項1号)による時効中断の効力が、訴求されていない残部にも及ぶか。
規範
裁判上の請求による時効中断の効力は、原則として請求のあった範囲、すなわち訴訟物となった範囲においてのみ生じる。一個の債権の数量的一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴えが提起された場合、訴訟物となるのは当該債権の一部であって全部ではない。したがって、その後の請求の拡張(残部の請求)による時効中断の効力は、拡張の書面を裁判所に提出した時に生じる。
重要事実
被上告人(原告)らは、不法行為に基づき各自が被った損害全額を明らかにした上で、そのうち「一割」に相当する金額のみを請求する旨を明示して本訴を提起した。その後、訴訟の進行に伴い、被上告人らは請求を拡張して残額の支払いを求めた。これに対し、上告人(被告)は、拡張された残額部分については既に消滅時効が完成していると主張して時効の抗弁を提出した。
あてはめ
本件において、被上告人らは損害額の一割に限定して権利を行使する旨を明示して提訴している。この場合、原告自身が裁判上の請求を行わないことを明示している残部については、訴え提起によって「権利の上に眠っていない」ことが客観的に示されたとはいえない。また、一部請求の訴訟物は一部に限定されるため、全部について中断の効力を認めることは、民法や民訴法の予定する訴訟物概念に反する不合理な結果を招く。したがって、一部請求の訴え提起時に残部について時効が中断したと解することはできない。
結論
一部請求の訴え提起による時効中断の効力は、当初の訴求金額の範囲に限られ、残部には及ばない。残部については請求拡張の書面提出時に中断の効力が生じる。
実務上の射程
明示の一部請求における消滅時効の範囲を確定させた重要判例である。答案では、請求の拡張をする際、拡張部分が時効期間経過後であれば、時効の抗弁が認められるという文脈で使用する。反対に、債権全額の中断を狙う場合は「明示なき一部請求」や「残部の催告」の構成を検討する指針となる。
事件番号: 昭和44(オ)882 / 裁判年月日: 昭和45年7月24日 / 結論: 棄却
一、不法行為の被害者が負傷のため営業上得べかりし利益を喪失したことによつて被つた損害額を算定するにあたつては、営業収益に対して課せられるべき所得税その他の租税額を控除すべきではない。 二、一個の債権の一部についてのみ判決を求める趣旨が明示されていないときは、訴提起による消滅時効中断の効力は、右債権の同一性の範囲内におい…