一、不法行為の被害者が負傷のため営業上得べかりし利益を喪失したことによつて被つた損害額を算定するにあたつては、営業収益に対して課せられるべき所得税その他の租税額を控除すべきではない。 二、一個の債権の一部についてのみ判決を求める趣旨が明示されていないときは、訴提起による消滅時効中断の効力は、右債権の同一性の範囲内においてその全部に及ぶ。
一、得べかりし利益の喪失による損害額の算定と租税控除の要否 二、一部請求の趣旨が明示されていない場合の訴提起による時効中断の範囲
民法709条,民法147条1号,民法149条,所得税法9条1項21号,民訴法235条
判旨
損害賠償請求において、訴状で一部請求である旨を明示していない場合は、債権の全部を訴求したものと解され、訴え提起による消滅時効中断の効力は債権の全範囲に及ぶ。
問題の所在(論点)
損害賠償請求の訴え提起において、訴状に一部請求である旨を明示していない場合、時効中断の効力は訴状に具体的に記載された損害内訳以外の範囲(後に拡張された部分)にも及ぶか。
規範
一個の債権の一部についてのみ判決を求める趣旨を明らかにして訴えを提起した場合、時効中断の効力はその一部にのみ生じ、残部には及ばない。しかし、一部請求である旨の明示がないときは、請求額を訴訟物たる債権の全部として訴求したものと解すべきであり、この場合には債権の同一性の範囲内においてその全部につき時効中断の効力が生じる。
重要事実
被害者である被上告人は、加害者である上告人らに対し、自動車事故に基づく損害賠償を請求した。当初の訴状では、特定の治療費(5万198円)は損害額の算定根拠に含まれておらず、後に口頭弁論期日において請求を拡張する形で具体的に主張された。これに対し、被告側は当該拡張分について時効消滅を主張した。
あてはめ
本件訴状の記載によれば、被上告人が事故による損害のうち一部のみを求める趣旨を明示していたとは認められない。したがって、特定の治療費が当初の請求における算定根拠に含まれていなかったとしても、訴え提起による時効中断の効力は当該損害部分を含めた債権の全部に及ぶと解される。被告による時効の抗弁は認められない。
結論
一部請求である旨の明示がない限り、訴え提起による時効中断の効力は債権の全部に及ぶため、請求拡張部分についても時効は完成しない。
実務上の射程
訴訟上の請求が一部請求か全部請求かの区別に関する基準を示した重要判例である。答案上は、時効中断の範囲が問題となる場面で、まず「明示の有無」を確認し、明示がない場合には本判例を根拠として債権全額への効力波及を肯定する論法として用いる。
事件番号: 昭和31(オ)388 / 裁判年月日: 昭和34年2月20日 / 結論: その他
一個の債権の数量的な一部についてのみ判決を求める旨明示して訴の提起があつた場合、訴提起による消滅時効中断の効力は、その一部の範囲においてのみ生じ残部におよばない。
事件番号: 昭和26(オ)222 / 裁判年月日: 昭和26年10月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判所が原告の請求の全部を認容する判決を言い渡した場合、当該判決は請求の一部を認容する判決には該当せず、上告理由に当たらない。 第1 事案の概要:被上告人(原告)が上告人(被告)に対し、金2万1900円およびこれに対する昭和24年6月25日からの年6分の遅延損害金の支払を求めた。第一審裁判所は、こ…