Xが,Yに対し,県が買収を予定していた土地上の樹木についてYがした仮差押命令の申立ての違法を理由として,本案訴訟の応訴等に要した弁護士費用相当額の賠償を求める前訴を提起した後に,同一の不法行為に基づき,県からの買収金の支払が遅れたことによる損害の賠償を求める後訴を提起した場合において,Xは,前訴において,上記仮差押命令の申立てがXによる上記土地の利用と買収金の受領を妨害する不法行為であるとして,買収金の受領が妨害されることによる損害が発生していることをも主張していたものということができるなど判示の事情の下では,Xが前訴において請求する損害賠償請求権と後訴において請求する損害賠償請求権とは1個の債権の一部を構成するものではあるが,前訴において1個の債権の一部についてのみ判決を求める旨が明示されていたものと解すべきであり,前訴の確定判決の既判力は後訴に及ばない。
前訴において1個の債権の一部についてのみ判決を求める旨が明示されていたとして,前訴の確定判決の既判力が当該債権の他の部分を請求する後訴に及ばないとされた事例
民訴法114条
判旨
不法行為に基づく損害賠償請求において、前訴で一部の損害項目のみを特定して請求し、かつ、他の損害項目の発生が当時予測困難である等の特段の事情がある場合には、明示の一部請求と同様に、前訴判決の既判力は残部の請求に及ばない。
問題の所在(論点)
一個の不法行為から生じた複数の損害項目のうち、一部の費目を特定して請求した前訴判決の既判力が、後訴で請求された別種の損害項目に及ぶか。また、損害項目の特定が「一部請求の明示」にあたるか。
規範
1個の損害賠償請求権のうち一部の損害項目(費目)を特定して請求した場合には、原則として残部の損害項目に既判力は及ばない。これは、特定の損害項目のみについて判決を求める旨が明示されていると解されるからであり、特に残余の損害の発生や額が前訴係属中に確定しておらず、併せて請求することを期待し難い事情がある場合には、残部請求について前訴判決の既判力による拘束を受けない。
重要事実
被告(被上告人)は、原告(上告人)ら所有の土地上の樹木に対し、償金請求権を被保全権利として仮差押えを執行した。原告らは前訴反訴において、当該仮差押えが違法であるとして「弁護士費用相当額」の賠償を請求し認容された。原告らはその後、仮差押えの執行により土地の買収金受領が遅れたことによる「遅延損害金相当額」の賠償を求めて本訴を提起したが、被告は前訴の既判力により本訴請求は遮断されると主張した。
あてはめ
原告らは前訴で「弁護士費用」と費目を特定して請求しており、これは実質的な発生事由を異にする「買収金の遅延損害」とは別種の損害である。前訴係属中は仮差押執行が継続しており、遅延損害の額が確定していなかったため、前訴で併せて請求することは期待し難かった。また、被告も前訴時点で遅延損害の発生や拡大の可能性を認識していた。これらの事情から、前訴反訴では損害賠償請求権の一部である弁護士費用についてのみ判決を求める旨が明示されていたと解される。
結論
本件遅延損害金の請求には前訴確定判決の既判力は及ばない。したがって、既判力による遮断を認めた原判決は破棄され、審理のため差し戻される。
実務上の射程
一部請求における「明示」の有無の判断において、単に文言上「一部」と書くだけでなく、請求する損害項目(費目)を限定・特定して主張していることや、残部の発生・確定状況といった客観的事実から「一部のみの審理を求める意思」を読み取ることができる。実務上、先行する訴訟で損害が未確定な項目がある場合に、別訴提起の可能性を残すための重要な指針となる。
事件番号: 昭和44(オ)882 / 裁判年月日: 昭和45年7月24日 / 結論: 棄却
一、不法行為の被害者が負傷のため営業上得べかりし利益を喪失したことによつて被つた損害額を算定するにあたつては、営業収益に対して課せられるべき所得税その他の租税額を控除すべきではない。 二、一個の債権の一部についてのみ判決を求める趣旨が明示されていないときは、訴提起による消滅時効中断の効力は、右債権の同一性の範囲内におい…