公正証書に記載される執行受諾の意思表示には民法第一一〇条の適用または準用はないものと解すべきである
公正証書に記載される執行受諾の意思表示と民法第一一〇条の適用ないし準用の有無
民訴法559条3,民法110条
判旨
公正証書に記載される執行受諾の意思表示は公証人に対してなされる訴訟行為であるから、民法110条の適用または準用はない。
問題の所在(論点)
公正証書に記載される執行受諾(執行認諾)の意思表示に、民法110条(権限外の行為の表見代理)を直接適用または準用することができるか。
規範
公正証書における「直ちに強制執行を受けるべき旨」の意思表示は、公証人(国)に対してなされる訴訟行為としての性質を有する。民法110条は私人間の取引における相手方の信頼保護を目的とする規定であるため、公法上の行為である訴訟行為には同条の適用または準用はない。
重要事実
上告人は、公正証書の作成に関し、消費貸借という実体法上の行為の効力と、執行受諾という手続法上の意思表示の効力について、民法110条の適用の有無を区別した原判決に不服を申し立てた。具体的事案の詳細は判決文からは不明であるが、代理人による公正証書作成において、その代理権の範囲を逸脱した行為があったものと推認される。
あてはめ
本件における執行受諾の意思表示は、単なる私法上の合意ではなく、公証人という公権力に対してなされる訴訟上の行為である。民法110条の趣旨は、表見代理人を真正な代理人と信頼して取引に入った相手方を保護し、取引の安全を図ることにある。しかし、訴訟行為については明確かつ画一的な処理が求められる性質上、私法上の取引安全を目的とする同条を及ぼすべきではない。したがって、実体上の消費貸借の効力とは切り離し、執行受諾の意思表示について同条の適用を否定した原審の判断は正当である。
結論
公正証書による執行受諾の意思表示には民法110条の適用・準用はなく、代理権を欠く場合には無効となる。
実務上の射程
本判例は、私法上の行為(契約等)と訴訟行為(執行受諾)の二面性を持つ公正証書について、民法の表見代理規定が訴訟行為部分には及ばないことを明確にしている。答案上は、実体法上の債務の有効性と執行力の有無を分けて論じる際に、訴訟行為の明確性の観点から民法110条の類推適用を否定する根拠として用いる。
事件番号: 昭和38(オ)143 / 裁判年月日: 昭和38年6月27日 / 結論: 棄却
公正証書の執行認諾の合意に民法第一一〇条の適用はない。