仮処分債権者たるA労働組合と同債務者たる日本国有鉄道との間の紛争につき公共企業体仲裁委員会のした仲裁裁定を仮処分債務者が実行しないため、債権者組合が合法闘争をあきらめ非合法闘争に移る危険があるということは、右裁定に従えとの仮の地位を定める仮処分を必要とする理由となるものではない。
仮処分債権者たるA労働組合と同債務者たる日本国有鉄道との間の紛争につき公共企業体仲裁委員会のした仲裁裁定を仮処分債務者が実行しないため、債権者組合が合法闘争をあきらめ非合法闘争に移る危険があるということは、右裁定に従えとの仮の地位を定める仮処分を必要とする理由となるか。
民訴法760条
判旨
金銭給付を目的とする請求権の保全には、金銭以外の特定給付を対象とする仮処分ではなく、本来仮差押えを用いるべきである。また、債権者自身による非合法闘争の危険や、即時履行不能な多額の金銭債務を理由とする生活窮乏の主張だけでは、仮の地位を定める仮処分の必要性は認められない。
問題の所在(論点)
金銭債権の支払を求める仮処分において、債権者自身の違法行為の予告や、抽象的な生活窮乏の主張によって「仮の地位を定める仮処分の必要性」が認められるか。
規範
仮の地位を定める仮処分の必要性(民事保全法23条2項参照)は、継続する権利関係に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるために必要であることを要する。第一に、自らの不法行為(非合法闘争)を理由とする危険は「著しい損害等」に当たらない。第二に、本来は仮差押えの対象となる金銭債権につき、例外的に仮の地位を定める仮処分が許容されるには、本案判決を待つことができないほどの高度の必要性(生活窮乏等)が具体的に立証されなければならない。
重要事実
債権者である労働組合が、公共企業体(債務者)による仲裁裁定の不履行を理由に、未払金約30億円の支払等を求める仮処分を申し立てた。組合側は、保全の必要性として、①支払がなければ組合員が非合法闘争に及ぶ危険があること、②多額の未払により組合員が著しい窮乏に陥ることの二点を主張した。しかし、主張された金額のうち即時支出可能なのは一部にとどまり、残額は予算上の手当てを待つ必要があるものであった。
あてはめ
第一に、非合法闘争の危険は、債権者自らの侵害行為に帰するものであり、他者から受ける損害とはいえない。また、仮処分は私権保護の制度であり、公共の福祉の侵害回避を目的とする必要性は認められない。第二に、生活窮乏の点については、組合側が全額の即時履行を前提とせず、予算流用等の条件付履行を主張していることから、本案判決を待たずに直ちに支払を命じなければ生活が破綻するほどの急迫性は認められない。さらに、金銭債権は本来仮差押えによるべきであり、仮処分で保全すべき必要性は極めて限定的に解すべきである。
結論
本件仮処分の申立ては、保全の必要性を欠くものとして却下すべきである。
実務上の射程
金銭債権の仮処分(満足的仮処分)のハードルを極めて高く設定した判例である。答案上では、保全の必要性を検討する際、①金銭債権であれば原則として仮差押えによるべきであること、②満足的仮処分が許されるには生活困窮等の具体的な「著しい損害」の疎明が必要であることを論じる際の根拠となる。また、自力救済を示唆するような事情が必要性に当たらない点も重要である。
事件番号: 昭和28(オ)306 / 裁判年月日: 昭和29年4月30日 / 結論: 棄却
一 民訴第七五九条の特別事情による仮処分取消の申立は、仮処分申請事件の口頭弁論において、抗弁としてなすこともできる。 二 仮処分によつて保全せらるべき権利が金銭的補償によつてその終局の目的を達し得るかどうかは、本案訴訟における請求の内容および当該仮処分の目的等諸般の状況に照らし、社会通念に従い客観的に考察し判断すべきも…