一 新聞記事による名誉段損にあっては、これを掲載した新聞が発行され、読者がこれを閲読し得る状態になった時点で、右記事により事実を摘示された人が当該記事の掲載を知ったかどうかにかかわらず、損害が発生する。 二 名誉殿損による損害が生じた後に被害者が有罪判決を受けたことは、これにより損害が消滅したものとして既に生じている名誉殿損による損害賠償請求権を消滅させるものではない。 三 名誉殿損による損害についての慰謝料の額は、損害が生じた後に被害者が有罪判決を受けたことをしんしゃくして算定することができる。
一 新聞記事による名誉殿損によって損害の発生する時期 二 名誉殿損による損害が生じた後に被害者が有罪判決を受けたことと名誉殿損による損害賠償請求権の消長 三 名誉殿損による損害について慰謝料の額を算定するに当たり損害が生じた後に被害者が有罪判決を受けたことをしんしゃくすることの可否
民法709条,民法710条
判旨
名誉毀損による損害は新聞記事掲載時に発生し、その後に被害者が別件で有罪判決を受けても、既に発生した損害賠償請求権が消滅することはない。ただし、その後の有罪判決による社会的評価の低下は、慰謝料額を算定する際の裁量的要素として考慮し得る。
問題の所在(論点)
名誉毀損による損害賠償請求権が成立した後に、被害者が別件で有罪判決を受けたことが、当該請求権の成否および損害の発生にどのような影響を及ぼすか(民法709条、710条、723条)。
規範
不法行為の被侵害利益としての名誉とは、人の品性、徳行等の人格的価値に対する客観的評価である。新聞記事による名誉毀損は、発行され読者が閲読し得る状態になった時点で成立し、客観的な社会的評価が低下した時点で損害が発生する。一度発生した損害賠償請求権は、その後に被害者の社会的評価が他の理由(別件の有罪判決等)により更に低下しても、当然には消滅しない。ただし、当該事実と有罪判決の事実に同一性がある場合の違法性・過失の判断や、事実審の口頭弁論終結時までの事情を斟酌する慰謝料額の算定において、後の有罪判決を考慮することは可能である。
重要事実
被告(被上告人)が発行する新聞に、原告(上告人)が過去に保険金殺人の計画を持ち込んだとする「乙さんの証言」に基づいた記事が掲載された。記事掲載後、原告は本件記事とは別の、第三者に依頼して妻を殺害しようとした二つの事件で起訴され、第一審および控訴審において有罪判決(上訴中)を受けた。原審は、原告の社会的評価は有罪判決により既に低下しており、遠い過去の記事による回復を図ることは有害であるとして、損害賠償請求を否定した。
あてはめ
不法行為による名誉毀損は、本件記事が掲載された新聞が発行された時点で既に成立しており、その時点で原告には損害が発生している。その後の有罪判決は、本件記事が発行された時点での評価低下という事実を消滅させるものではない。本件記事が摘示した事実(過去の殺人計画の勧誘)と有罪判決の事実(実際の殺人未遂等)は同種ではあるが同一性はなく、違法性等を否定する事情にはならない。したがって、有罪判決の事実は、慰謝料額を算定する上での諸般の事情として斟酌し得るにすぎず、請求権そのものを否定する根拠とはならない。
結論
名誉毀損による損害賠償請求権は成立しており、その後の有罪判決を理由に請求を棄却した原審の判断は法令の解釈適用を誤った違法がある。原判決を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
名誉毀損の成立時期(客観的評価の低下時)を明確にし、事後的な事情が請求権の存否に与える影響を限定した。答案上では、名誉毀損の成立(損害の発生)を論じた後、被告側の反論(後の有罪判決による評価低下)に対する再反論として、請求権の消滅を否定しつつ、損害論(慰謝料額の算定)の段階で考慮すべきことを指摘する使い方が適している。
事件番号: 平成8(オ)576 / 裁判年月日: 平成14年1月29日 / 結論: 破棄差戻
裁判所は,名誉毀損に該当する事実の真実性につき,事実審の口頭弁論終結時において客観的な判断をすべきであり,その際に名誉毀損行為の時点では存在しなかった証拠を考慮することも許される。