丁戊二筆の土地の借地権者甲が、ガソリンスタンドの営業のために、丁地上に登記されている建物を所有して店舗等として利用し、隣接する戊地には未登記の簡易なポンプ室や給油設備等を設置し、右両地を一体として利用していて、戊地を利用することができなくなると右営業の継続が事実上不可能となり、甲が右ポンプ室を独立の建物としての価値を有するものとは認めず登記手続を執らなかったこともやむを得ないと見られ、他方、右両地の買主乙には将来の土地の利用につき格別に特定された目的は存在せず、乙が売主の説明から直ちに甲は使用借主であると信じたことについては落ち度があるなど判示の事情の下においては、乙が右両地を特に低廉な価格で買い受けたものではなかったとしても、乙の戊地についての明渡請求は、権利の濫用に当たり許されない。
一体として利用されている二筆の借地のうち一方の土地上にのみ借地権者所有の登記されている建物がある場合において両地の買主による他方の土地の明渡請求が権利の濫用に当たるとされた事例
民法1条3項,建物保護に関する法律1条,借地借家法10条1項
判旨
建物所有を目的とする複数土地の賃借人が、一部の土地に対抗要件を欠く場合でも、土地が一体として利用され、賃借人の必要性が強く、買主に落ち度がある等の事情があれば、買主の明渡請求は権利の濫用として許されない。
問題の所在(論点)
借地権の対抗要件を欠く土地の譲受人による明渡請求が、権利の濫用として制限されるための判断枠組みが問題となる。
規範
建物所有を目的とする複数土地の賃借人が、一部の土地上に登記ある建物を有しない場合、当該土地の買主による明渡請求が権利の濫用(民法1条3項)に当たるかは、①双方の土地利用の必要性・損失の程度、②買主の主観(利用状況の認識や明渡請求の経緯)、③賃借人が対抗要件を具備しなかったことの不可抗力性等を総合考慮して判断する。
重要事実
事件番号: 昭和51(オ)478 / 裁判年月日: 昭和52年3月31日 / 結論: 破棄差戻
建物所有を目的とする土地賃貸借の賃借人が、賃借地上の建物に登記をしていないため、賃借地を買い受けた者に対し、形式的には、その賃借権をもつて対抗することができない場合であつても、右登記をしていなかつたことに宥恕されるべき事情があり、また、土地の買受人が、賃借権に対抗力のないことを奇貨として、賃借人に対し土地の明渡しを求め…
上告人(賃借人)は、隣接するd地・e地を一体としてガソリンスタンド(GS)営業に使用していた。e地上の建物には登記があったが、d地上には地下貯蔵槽や未登記のポンプ室があるのみで、d地自体に対抗要件(借地借家法10条1項)はなかった。被上告人(買主)は、GSとしての利用状況を認識しつつ、前所有者の「使用貸借である」との虚偽説明を信じてd地・e地を購入し、d地の明渡しを求めた。
あてはめ
①上告人はd地を給油場所としてe地と一体利用しており、明渡しはGS営業の廃止に直結する一方で、被上告人には特定の利用目的がない。②被上告人は営利法人が堅固な建物を建て長期営業している実態を知りながら、権利関係の不安定な使用貸借との説明を鵜呑みにして調査を怠っており、過失(落ち度)が認められる。③d地上の施設は登記に適さない地下施設等が主であり、未登記であることもやむを得ない。以上から、上告人の土地利用の必要性は極めて高く、被上告人の請求は権利の濫用に当たる。
結論
被上告人によるd地の明渡請求は、権利の濫用として認められない。
実務上の射程
対抗要件(不動産登記や建物登記)を欠く借地人の救済として、背信的悪意者(民法177条)の法理とは別に、権利の濫用(民法1条3項)による構成を示した点に実務上の意義がある。土地の一体利用が認められる事案での防御手段として重要である。
事件番号: 昭和39(オ)283 / 裁判年月日: 昭和41年7月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃借権に抗弁権がないことを奇貨として、専ら嫌がらせや報復の目的で土地を買収し、建物収去土地明渡を求める権利行使は、所有権の濫用(民法1条3項)にあたり許されない。 第1 事案の概要:被上告人は本件土地所有者との間に安定した賃借権を有し、土地の買受け交渉中であった。しかし、上告人はこれを知りながら、…
事件番号: 昭和39(オ)24 / 裁判年月日: 昭和40年2月12日 / 結論: 棄却
土地賃貸人において、転借人に対し後日直接賃貸借契約をしてよい意向を示し、それまでの間は転借について暗黙の承諾をしたと見られるような態度をとり、転借人としては、賃貸人の指図に従い、同人の転貸人に対する賃貸借消滅による建物収去土地明渡請求訴訟に協力する態度をとり、賃貸人が勝訴すれば自ら賃借できると考え、同人から明渡を請求さ…
事件番号: 昭和42(オ)890 / 裁判年月日: 昭和43年9月12日 / 結論: 破棄差戻
通常の共同訴訟においては、共同訴訟人間に共通の利害関係があるときでも、補助参加の申出をしないかぎり、当然には補助参加をしたと同一の効果を生ずるものではない。
事件番号: 昭和60(オ)1496 / 裁判年月日: 平成元年2月7日 / 結論: 破棄差戻
借地上の建物に代物弁済を登記原因とする所有権移転登記がされた場合、右登記が債権担保の趣旨のものであつても、土地賃借人は、その後右土地の所有権を取得した第三者に対し土地賃借権を対抗することができない。