一 執行官は、現況調査を行うに当たり、通常行うべき調査方法を採らず、あるいは、調査結果の十分な評価、検討を怠るなど、その調査及び判断の過程が合理性を欠き、その結果、現況調査報告書の記載内容と目的不動産の実際の状況との間に看過し難い相違が生じた場合には、目的不動産の現況をできる限り正確に調査すべき注意義務に違反したものというべきである。 二 執行官が、山林の現況調査を行うに当たり、自ら案内を申し出た町役場職員の指示した土地が現況調査の対象ではなかったにもかかわらず、右職員に対する質問や他の調査結果との照合により右職員の指示説明の正確性を検討することを怠り、また、携行していた不動産登記法一七条所定の登記所備付地図の写しと現地の状況との照合を十分に行わなかったために両者の相違に気付かず、その結果、右職員の指示した土地を現況調査の対象と誤認して、右土地の現況を現況調査報告書に記載したなど判示の事実関係の下においては、右執行官は、目的不動産の現況をできる限り正確に調査すべき注意義務に違反したものと認められる。
一 不動産の現況調査を行うに当たっての執行官の注意義務 二 執行官が現況調査を行うに当たり目的不動産の現況をできる限り正確に調査すべき注意義務に違反したと認められた事例
国家賠償法1条1項,民事執行法57条
判旨
執行官が不動産競売の現況調査において、通常行うべき調査方法を怠り、その調査・判断の過程が合理性を欠くことで報告書の内容と実況に看過し難い相違が生じた場合、国家賠償法1条1項の注意義務違反が成立する。
問題の所在(論点)
不動産競売における執行官の現況調査(民事執行法57条)に誤りがあった場合、国家賠償法1条1項にいう「職務上の注意義務違反」が認められるための判断枠組みが問題となる。
規範
執行官は、買受希望者との関係でも目的不動産の現況をできる限り正確に調査すべき注意義務を負う。調査には迅速性や物理的制約があるため、単に実況と相違があるだけで直ちに違法とはならない。しかし、①通常行うべき調査方法を採らず、あるいは②調査結果の十分な評価・検討を怠るなど、調査・判断過程が合理性を欠き、その結果、報告書と実況との間に「看過し難い相違」が生じた場合には、当該注意義務に違反したものとして国家賠償責任を負う。
重要事実
執行官Eは、山林の現況調査に際し、登記所備付地図(17条地図)の写しを携行していたが、磁石を持参せず方位等の照合を怠った。また、案内した役場職員の知識の程度を確認せず、その説明を軽信して、本来の対象地ではない隣地(廃屋のある土地)を対象地と誤認した。その結果、誤った所在・現況を記載した報告書を作成し、これを信じて買い受けた被上告人は、後に真の所有者から建物の明渡しを求められる損害を被った。
あてはめ
Eは、土地特定に不可欠な資料である17条地図を携行しながら、方位や道路との位置関係を現地と照合する通常行うべき調査方法を怠っている。また、案内人の説明と地図の記載に相違があったにもかかわらず、案内人の知識を確認せず漫然と信頼しており、調査結果の評価・検討過程も合理性を欠く。その結果、土地の特定そのものを誤るという看過し難い相違を生じさせたといえるため、注意義務違反(過失)が認められる。
結論
執行官の調査過程は合理性を欠き、重大な相違を生じさせたため、国家賠償法1条1項に基づき、国は被上告人に対し損害賠償責任を負う。
実務上の射程
公務員の裁量的判断が介在する職務における過失の判断枠組みとして、職務の目的(買受希望者への情報提供)と実務上の制約のバランスを考慮した「調査・判断過程の合理性」を基準とする判例である。答案上は、制度の趣旨から導かれた注意義務の内容を明示した上で、本件のような「地図との照合欠如」や「説明の軽信」を具体的な合理性欠如の事情として指摘する際に用いる。
事件番号: 昭和53(オ)69 / 裁判年月日: 昭和57年3月12日 / 結論: 棄却
裁判官がした争訟の裁判につき国家賠償法一条一項の規定にいう違法な行為があつたものとして国の損害賠償責任が肯定されるためには、右裁判に上訴等の訴訟法上の救済方法によつて是正されるべき瑕疵が存在するだけでは足りず、当該裁判官が違法又は不当な目的をもつて裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行…