一 森林窃盗の犯人が伐採して森林内に放置していた伐採木を、仮処分決定の執行により執行吏が占有した後、右犯人がそのことを知りながら、さらにこれを自己の占有に移した場合には、森林窃盗のほか刑法第二三五条の窃盗罪が成立する。 二 申請人の錯誤により、地番を誤記して申請した仮処分決定にもとづき、目的物についてなされた差押の標示は、その取消がなされるまでは刑法第九六条の差押の標示というを妨げない。
一 同一物について森林窃盗と窃盗の両罪の成立が認められた事例。 二 地番誤記の仮処分決定にもとづく執行と刑法第九六条の差押の標示。
森林法197条,刑法235条,刑法96条,民訴法755条,民訴法756条
判旨
仮処分決定の表示が地番の誤記等に基づくものであっても、その取消しがなされるまでは刑法96条の差押の標示として有効であり、また、森林窃盗の犯人が伐採放置した木材を執行吏が占有した後に持ち出した場合は、別途窃盗罪が成立する。
問題の所在(論点)
1. 仮処分申請の地番誤記に基づきなされた差押の標示が、刑法96条の「差押の標示」に該当するか。 2. 森林窃盗の犯人が伐採・放置した物を、執行官が占有した後に持ち出した場合、森林窃盗罪とは別に窃盗罪が成立するか。
規範
1. 仮処分決定の申請に地番等の錯誤による誤記があったとしても、当該決定に基づきなされた差押の標示は、適法に取消されるまでは刑法96条の「差押の標示」としての効力を有する。 2. 森林窃盗の犯人が伐採・放置した物を、執行官が仮処分執行により占有した後は、当該物は執行官の占有に帰属する。したがって、犯人がこれを再度自己の占有に移す行為は、森林窃盗罪とは別に窃盗罪(刑法235条)を構成する。
重要事実
被告人は森林窃盗を犯し、伐採した木材を森林内に放置していた。その後、当該森林(d番地)を対象とする仮処分申請において、申請人の錯誤により地番を「f番地」と誤記した仮処分決定がなされた。執行吏はこの決定に基づき、本来の対象地であるd番地の山林において差押の標示を施し、放置されていた伐採木の占有を取得した。被告人は、この執行吏の占有下にある伐採木を森林外に持ち出し、自己の占有に移した。
あてはめ
1. 本件では地番の誤記という瑕疵があるものの、公文書である仮処分決定に基づき現に差押の標示がなされている以上、公権的な執行の効力は認められる。したがって、取消しという適法な手続きを経ない限り、刑法上の保護対象となる標示に該当するといえる。 2. 被告人が伐採した木材は、執行吏が仮処分の執行により占有を開始した時点で、執行吏の占有に属する他人の財物となっている。被告人がこれを森林外へ持ち出す行為は、新たな占有奪取行為と認められ、先行する森林窃盗罪に吸収されることなく、窃盗罪の構成要件を充足すると解される。
結論
1. 誤記のある仮処分に基づく標示も、取消されるまでは刑法96条の差押の標示に当たる。 2. 被告人の行為には森林窃盗罪のほか、窃盗罪が成立する。
実務上の射程
公務執行妨害罪等における「職務の適法性」の判断において、重大かつ明白な瑕疵がない限り、外形的に存在する執行行為が保護されることを示唆する。また、占有の移転が認められる場合には、先行する犯罪態様に関わらず、新たな占有侵害として窃盗罪が成立し得るという、罪数論・占有概念の判断基準として活用できる。
事件番号: 昭和30(あ)259 / 裁判年月日: 昭和32年8月20日 / 結論: 棄却
杉立木一一本が警察より仮還付せられたものであるから伐採してもよいと信じていたとしても、いやしくも右杉立木を執行吏の占有に移す旨の仮処分命令にもとずき掲示された公示札の趣旨を知悉し、現実に右杉立木が執行吏の占有中にあることを認識しながらこれを伐採、搬出した所為は、差押標示無効罪および窃盗罪に該当する。