一 旧関税法(昭和二九年法律第六一号による改正前のもの)第八三条第三項にいわゆる犯人とは、犯罪貨物の所有者または占有者であつた者に限らず、当該犯罪に関与したすべての犯人をふくむ趣旨である。 二 旧関税法第八三条第三項は、憲法第三一条、第二九条に違反しない。 三 刑罰法令で一の犯罪に対する法定刑として主刑および犯罪に係る物の没収またはこれに代わる追徴を併科しうべき旨の規定がある場合において、右規定にしたがい、一の裁判により一個の犯罪につき、法廷の主刑および没収またはこれに代わる追徴を併科することが憲法第三九条後段に違反しないことは当裁判所の判例とするところである(昭和三四年(あ)第二六六号同三七年一一月七日大法廷判決、刑集一六巻一一号一五〇五頁参照)。 四 (裁判官入江俊郎の附加補足意見)刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法が制定され、昭和三八年八月一日より施行されるに至り、同法所定の手続を践むことにより第三者所有物の没収は憲法上許されることとなつた。それ故、この場合において、没収すべき物が既に処分されていて没収ができないような事案においては、当該被告人に弁解、防禦の議会が与えられており、かつ追徴を科する前提要件たる第三者所有物没収に関する事実関係の存在について適法な審理が尽されている限り、旧関税法第八三条第三項により、右没収に代え、その価格に相当する金額を追徴すべきものである。(裁判官横田喜三郎は右附加補足意見に同調する。)
一 旧関税法(昭和二九年法律第六一号による改正前のもの)第八三条第三項により追徴を科せられる犯人の範囲。 二 旧関税法第八三条第三項と憲法第三一条、第二九条。 三 刑罰法令の規定にしたがい一の犯罪につき法廷の主刑を科した上、没収又は追徴を科することは憲法第三九条後段の規定に違反するか。 四 刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法の施行と第三者所有物没収に代わる追徴。
関税法(昭和29年法律61号)附則13項,関税法(昭和29年法律61号)118条2項,旧関税法(昭和29年法律61号による改正前のもの)83条,旧関税法(昭和29年法律61号による改正前のもの)75条1項,旧関税法(昭和29年法律61号による改正前のもの)83条3項,憲法29条,憲法31条,憲法39条,刑事事件における第三者所有物の没収手続に関する応急措置法
判旨
関税法上の没収不能による追徴は、犯罪貨物の所有者や占有者に限らず、当該犯罪に関与したすべての犯人に対して科すことができる。これは追徴が制裁および抑圧を目的とする刑罰的性格を有することに基づくものであり、憲法31条、29条、39条に違反しない。
問題の所在(論点)
旧関税法83条3項の「犯人」に犯罪貨物の所有者や占有者でない者が含まれるか。また、非所有者等に対して追徴を科すことが、憲法31条(適正手続)、29条(財産権)、39条(二重処罰禁止)に違反しないか。
規範
没収に代わる追徴の規定(旧関税法83条3項)における「犯人」とは、犯罪貨物の所有者または占有者に限らず、当該犯罪に関与したすべての共犯者を包含する。追徴は犯罪に対する制裁と抑圧の手段としての刑罰的性格を有し、没収不能という事由が生じた場合には、犯罪に関与した者全員にその責任を問い得ると解される。また、一の裁判により主刑と没収または追徴を併科することは憲法39条後段の二重処罰の禁止に触れない。
重要事実
被告人は関税法違反の犯罪に関与したが、対象となった犯罪貨物の所有者でも占有者でもなかった。原審は、当該犯罪貨物が没収不能であったため、旧関税法83条3項に基づき、所有者等ではない被告人に対しても犯罪貨物の原価相当額の追徴を命じた。被告人側は、所有者でない者に追徴を科すことは適正手続(憲法31条)や財産権(同29条)を侵害し、不当な二重処罰であると主張して上告した。
あてはめ
追徴は保安処分的な性質のみならず、制裁としての刑罰的性格を併せ持つ。共犯者は犯罪に対して共同の責任を負うべきであり、追徴の刑罰的性格に鑑みれば、犯罪に関与した者すべてを対象とすることがその本旨に適合する。没収が可能な場合に非所有者が財産的不利益を受けないのは、単に所有権剥奪という没収の態様に基づく結果にすぎず、没収不能の場合に追徴という形で制裁を科すことが不合理であるとはいえない。また、一の裁判における主刑と附加刑の併科は、同一の犯罪に対し重ねて刑事上の責任を問うものではない。
結論
犯罪貨物の所有者や占有者でない犯人に対しても追徴を科すことができ、当該規定は憲法31条、29条、39条に違反しない。本件上告は棄却される。
実務上の射程
共犯事件における追徴の連帯的性格を基礎づける判例である。実務上、没収・追徴が刑罰的性格を有することを論証する際の根拠として用いられる。また、第三者所有物没収手続に関する応急措置法施行後の判断として、適正な手続(弁解・防御の機会)が確保されている限り、非所有者からの追徴が適憲である点を明確にしている。
事件番号: 昭和34(あ)2276 / 裁判年月日: 昭和39年7月1日 / 結論: 棄却
一 没収に代わる追徴に関する事項をいかに定めるかは、追徴なる制度の本旨に適合する限り、立法によつて定めうる事項であり、当該関税法違反の犯罪に関与した犯人のすべてに追徴を科することは、犯罪に対する制裁と、その抑圧の手段としての刑罰的性格を有する追徴の本旨に適合するものと認むべきであるから、犯罪貨物の所有者または占有者でな…
事件番号: 昭和37(あ)1866 / 裁判年月日: 昭和39年7月1日 / 結論: 棄却
一 法人の代表者に対する関税法違反被告事件において、同法第一一八条第一項により、第三者たるその法人所有の犯罪貨物を没収するにあたつては、被告人に対して犯罪事実に関する弁解、防禦の機会が与えられているかぎり、改めてその法人に対してこれらの機会を与えることを要しない。 二 関税法第一一八条第二項にいわゆる犯人とは、犯罪貨物…