被告人は昭和二五年八月下旬頃沖縄a島において取得した真鍮屑約三二噸の内二〇噸を甲丸に、一二噸を乙丸に積載し、甲丸は同年九月二日頃広島市b海岸に陸揚すべく同所付近まで帰航したが、海上保安官に発見されたため、その貨物輸入の目的を遂げず、乙丸は同月一日広島県安芸郡c町A工業株式会社裏手海岸に帰着し、同所に右貨物を陸揚してこれが密輸入を遂げた旨の事実は包括的な一個の密輸入既遂の事実ではなく甲丸による密輸入未遂と乙丸による既遂との二個の犯罪事実でるから、単に一個の既遂の法条のみに該当するものとし、未遂の事実につき法条を適用しないで処断した判決は、法令に違反した違法があるものといわなければならない。
密輸入未遂行為をし、さらに同既遂行為をした場合の擬律
関税法76条1項,関税法76条2項,関税法82条の4
判旨
複数の船舶を用いて行われた密輸入の事案において、一方の船舶による未遂事実と他方の船舶による既遂事実は包括一罪ではなく別個の犯罪を構成するが、被告人のみが上告した場合、未遂事実に法条を適用して刑を追加することは不利益変更禁止の原則に反するため許されない。
問題の所在(論点)
1. 別個の船舶により、同時期に、一部は未遂、一部は既遂となった密輸入事実が、包括的な一個の既遂罪となるか、それとも別個の犯罪事実となるか。 2. 判決に未遂事実の法条適用漏れがある場合、被告人のみの上告において、当該違法を理由に原判決を破棄できるか。
規範
密輸入の事実が複数存在する場合、その日時、場所、態様等に照らして別個の犯罪事実を構成するか、あるいは包括して一個の犯罪事実となるかを判断すべきである。また、原判決の法令違反を是正することで被告人に刑が追加される(実質的に重くなる)結果を招く場合、不利益変更禁止の原則(刑訴法402条参照)の趣旨に照らし、被告人の利益のために上告がなされた状況下では、当該法令違反を理由に原判決を破棄することはできない。
重要事実
被告人は他数名と共謀し、沖縄で取得した真鍮屑を二隻の船舶(明進丸と博洋丸)に分けて積載し、広島へ運搬した。明進丸は海上保安官に発見されたため陸揚げできず密輸入未遂に終わったが、博洋丸は海岸に到着して陸揚げを完了し密輸入を遂げた。原判決は、これら未遂と既遂の事実を区別せず、単に一個の既遂の法条のみを適用して処断した。弁護人は、原判決には法令違反があるとして上告した。
あてはめ
事実関係によれば、明進丸による未遂事実と博洋丸による既遂事実は、その日時や場所、経過等に照らし、包括的な一個の既遂罪ではなく二個の犯罪事実である。したがって、原判決が未遂事実に法条を適用せず、一個の既遂罪として処断した点には法令違反がある。しかし、この違法を是正して未遂の事実に刑を追加すれば、被告人にとって不利益な結果を招く。被告人のみが上告している本件において、被告人に不利益な主張は採用できない。
結論
原判決に未遂事実の法条適用漏れの違法はあるが、これを是正することは被告人に不利益な刑の追加を招くため、上告を棄却する。
実務上の射程
数罪が成立すべき場面で一罪として処理されている誤りがある場合でも、不利益変更禁止の法理から、被告人側の上告によって刑を重く(または罪数を増やして刑を追加)することはできないという枠組みを示す。罪数判断(包括一罪か別罪か)と不利益変更禁止の関係を論じる際の論拠として有用である。
事件番号: 昭和27(あ)4308 / 裁判年月日: 昭和29年2月25日 / 結論: 棄却
懲役刑のみを科する場合には、所論関税法七六条一項本文だけを適用すべく、同条項但書を適用する余地がなく、従つて、同但書所定の原価を確定する必要がないから、原判決には、所論のごとき理由不備又は審理不尽の違法がない。 註。所論は原価若しくは価値を確定しない違法があるとするもの。