証拠調が終つた後、検察官に対し、事実及び法律の適用について意見を陳述する機会を与えさえすれば、たとえ検察官が何等意見を述べなくても、訴訟手続が違法となるものではない。
検察官の事実及び法律の適用についての意見陳述の有無と訴訟手続の適否
刑訴法293条
判旨
証拠決定及び証拠調べにあたり検察官等の意見を聴く手続は、意見陳述の機会を与えれば足り、現実に意見が述べられなくとも違法ではない。また、意見を聴いた事実は公判調書の必要的記載事項ではないため、記載の欠如をもって直ちに手続の不履行とは断定できない。
問題の所在(論点)
証拠決定及び証拠調べにおいて、検察官等に意見を聴く際、実際に意見が述べられる必要があるか。また、意見を聴いた事実が公判調書に記載されていない場合に、当該手続が適法になされたと解してよいか。
規範
刑事訴訟法190条(現行326条等に関連する手続規定の解釈として)等に基づき証拠調べの意見を聴く際、裁判所は検察官等に意見陳述の機会を与えれば足り、相手方が現実に意見を述べない場合でも手続上の瑕疵はない。また、刑訴規則44条によれば、証拠調べに関する意見を聴いたことは公判調書の必要的記載事項に含まれない。
重要事実
被告人両名の弁護人が、原審において職権調査を怠った訴訟法違反があるとして上告した。具体的には、証拠決定及び証拠調べの際、検察官に対する意見陳述の機会の付与や、実際に意見を聴取した事実が公判調書に記載されていないことを理由として、手続の違法を主張した事案である。
あてはめ
本件では、記録上、問題の調書等について証拠決定及び証拠調べがなされたことが明白である。検察官に意見陳述の機会さえ与えれば、実際に意見が述べられなくとも手続上の要件は充足される。また、刑訴規則44条により、意見を聴いた事実は公判調書の必要的記載事項ではないため、調書に記載がないことをもって直ちに意見聴取が欠落していたとは認められない。
結論
本件証拠調べ等の手続に違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
証拠調べの適法性を争う際の形式的要件に関する判断基準を示す。公判調書の記載事項(刑訴規則44条)の限界を画定しており、調書に記載がない事実をすべて「行われなかった事実」として主張することはできないという実務上の留意点として機能する。
事件番号: 昭和29(あ)511 / 裁判年月日: 昭和29年4月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公判調書に特定の事実の記載がない場合であっても、それが刑事訴訟規則44条等の法令により記載要件とされていない事項であれば、当該記載の欠如をもって直ちにその事実がなかったと断定することはできない。 第1 事案の概要:被告人側は、公判調書に特定の事実の記載がないことを理由として、その事実が実際には存在…