被告人が学童服に不正な価格査定証紙を貼付し、その表示する価格が不正なものであることを知りながら、これを正当な査定価格であるかのように装つて相手方を欺罔し、所定の統制額を超過した代金で販売しその差額を騙取したときは右の所為は一面詐欺罪を構成すると同時に他面物価統制令に違反する。
一個の行為で詐欺ならびに物価統制令違反の二罪にあたる一事例
刑法246条1項,刑法54条1項,物価統制令3条,物価統制令4条,物価統制令33条
判旨
物価統制令違反の超過代金での販売行為が、同時に刑法上の詐欺罪を構成する場合、当該販売行為は民事上当然に無効ではなく、取消されるまでは有効であるため、物価統制令違反と詐欺罪の両罪が成立する。
問題の所在(論点)
虚偽の価格表示により統制額を超過する代金を騙取した行為について、詐欺罪(刑法246条)と物価統制令違反が同時に成立するか。詐欺による取引が民事上取り消し得るものであることが、行政刑罰の成否に影響を及ぼすか。
規範
物価統制令所定の統制額を超過した代金で販売する行為が、欺罔行為を伴い刑法上の詐欺罪を構成する場合であっても、当該販売行為は民事上当然に無効とはならず、相手方がこれを取り消すまでは有効な販売行為として成立する。したがって、一の販売行為が詐欺罪を構成すると同時に、物価統制令違反(価格統制違反)を構成し、両罪は併存し得る。
重要事実
被告人は、学童服に不正な価格査定証紙を貼付し、表示価格が不正であることを熟知しながら、それが正当な査定価格であるかのように装って相手方を欺いた。その結果、所定の統制額を超過した代金で学童服を販売し、正規価格との差額を騙取した。弁護人は、詐欺罪が成立する場合には取引が無効となり、物価統制令違反は成立しない旨を主張して上告した。
事件番号: 昭和24(れ)3064 / 裁判年月日: 昭和25年11月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共謀共同正犯の成立において、共謀および詐欺の意思等の主観的事実が原判決挙示の証拠により肯定できる場合、その認定は適法である。また、公判手続の更新については、裁判所が必要と認める場合にこれを行えば足り、一定期間の休止があったとしても直ちに違法とはならない。 第1 事案の概要:被告人AおよびBが、共謀…
あてはめ
本件被告人の行為は、不正な証紙を用いて相手方を欺罔し、本来の統制額を超える金員を支払わせたものであり、詐欺罪の構成要件を充足する。一方で、この販売行為自体は民事上当然に無効ではなく、取消権が行使されるまでは有効な取引として存在する。そのため、現実に行われた「統制額を超えた価格での販売」という事実は否定されず、物価統制令が禁ずる価格制限違反の事実も同時に認められる。したがって、一方の罪の成立が他方の成立を妨げるものではない。
結論
被告人の行為は詐欺罪を構成すると同時に、物価統制令違反にも該当する。原審が両罪の成立を認めた判断に憲法違反や法令の誤りはない。
実務上の射程
公法上の規制(行政罰)と私法上の効力、および刑法上の犯罪成否の関係性を示す。取引が詐欺により取り消し得る状態であっても、現に行われた経済活動が規制法に抵触する以上、行政刑罰は免れないという実務上の判断指針となる。観念的競合(刑法54条1項前段)等の処理において、構成要件の重畳的充足を認める際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和25(あ)2558 / 裁判年月日: 昭和26年8月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】物価統制令等に違反する超過代金での買受け(売買契約)において、単なる金銭の引渡行為のみならず、その合意(契約)があったと認められる場合には、同令違反の罪が成立する。 第1 事案の概要:被告人が、法令の規定により定められた制限額を超える代金(超過代金)で小麦粉を買い受ける契約を締結した。弁護人は、こ…
事件番号: 昭和26(れ)1504 / 裁判年月日: 昭和26年12月25日 / 結論: 棄却
右追公判請求書によれば検察官はA等において本件帆布を前記代金にて販売したときに横領行為が完成したものとして公訴を提起した趣旨と認められる。されば、横領罪を構成するものとして起訴された被告人A等の右販売行為が他面において物価統制令に違反するのであるから、刑法五四一条一項前段にいう一個の行為が他の罪名に触れる場合に当り、公…