昭和二六年四月当時佐賀県a町大字b字c駐在所勤務の巡査に対し同駐在所附近で「売国奴の番犬、A巡査をたたき出せ」と題し、「……たしかに、Aは売国奴の番犬だ!我々愛国者人民は近き将来に必ず勝利するのだ、かかる売国奴とその手先どもの行為は、来るべきあの有名な人民裁判によつて明らかにサバカレ処断されるであろう……」と書いた謄写版ずりのビラ数附近住民等に頒布して右住民を通じ同巡査の手中に入らしめて告知することはその言説内容と、公知の客観的姿勢と相俟つて脅迫たるを免れない。
脅迫にあたる事例
暴力行為等処罰に関する法律1条1項,刑法222条1項
判旨
憲法21条の保障する表現の自由も公共の福祉による制約を受け、客観的・具体的な害悪を告知し、一般人が畏怖を感じる程度の言説であれば、刑法上の脅迫罪が成立する。
問題の所在(論点)
特定の言説を警察官に告知する行為が、憲法21条1項の表現の自由として保障されるか、あるいは刑法222条の脅迫罪を構成するか。
規範
刑法上の「脅迫」とは、一般に人が畏怖を感じるに足りる程度の具体的かつ客観的な害悪の告知をいう。表現の自由(憲法21条1項)といえども無制限なものではなく、公共の福祉に反する限度において制約を受けるため、当該告知が上記性質を帯びる場合には、脅迫罪の成立を妨げない。
重要事実
被告人両名は、昭和26年4月当時、佐賀県下の山間僻地に所在する駐在所に勤務する地方警察吏に対し、所定の手段を用いて判示のような言説を告知した。この言説の内容は、当時の公知の客観的情勢と相まって、特定の害悪を及ぼすことを示唆するものであった。被告人らは、かかる言論の告知は表現の自由として保護されるべきであると主張し上告した。
事件番号: 昭和27(あ)3673 / 裁判年月日: 昭和28年12月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法21条1項が保障する表現の自由であっても、それ自体が犯罪を構成するような言動については、同条による保障の範囲内にない。 第1 事案の概要:被告人は特定の言動(犯罪を構成すると判断された具体的な行為内容は本判決文からは不明)に及び、第一審および控訴審で有罪判決を受けた。これに対し、被告人側が、当…
あてはめ
被告人らが告知した言説は、当時の公知の客観的情勢に照らせば、単なる抽象的な意見の表明にとどまらず、一つの具体的かつ客観的な害悪の告知であると解される。また、山間僻地の駐在所に勤務する警察官という相手方の置かれた状況等を考慮すれば、普通一般人の誰しもが畏怖を感じる程度のものと認められる。したがって、かかる言説の告知は刑法所定の脅迫に該当し、公共の福祉による正当な制約の範囲内にあるといえる。
結論
被告人らの行為には脅迫罪が成立し、表現の自由の侵害を理由とする憲法違反の主張は採用できない。
実務上の射程
脅迫罪における「害悪の告知」の客観的判断基準を示したものとして重要。表現行為の形式をとっていても、その内容が具体的害悪を伴い一般人を畏怖させるに足りる場合は、公共の福祉による制約(刑罰)が正当化されることを示しており、特に警察官等への言動が脅迫に当たるかの判断において射程を有する。
事件番号: 昭和31(あ)314 / 裁判年月日: 昭和33年4月22日 / 結論: 棄却
一 日本共産党員である被告人等が、町長選挙に際し、候補者(A)が前日居宅に火焔瓶投擲を受けて畏怖しつつあるのに乗じ、共同して同人を非難脅迫するビラを町内に撒布し同人を選挙において不利に陥れるとともに同人に右ビラを閲覧させてこれを脅迫すべきことを共謀し翌七月一二日共同して同町内で多人数に対し「天誅遂に下る。天人共に許さざ…
事件番号: 昭和27(あ)4085 / 裁判年月日: 昭和29年1月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人の自白が司法警察員の脅迫等の強制に基づくものと認められない場合には、憲法38条2項に反せず、証拠能力が認められる。 第1 事案の概要:被告人A及びBが、司法警察員による脅迫等によって自白を強要されたと主張し、憲法38条2項違反を理由に上告した事案。被告人側は、警察における共犯者の自白も任意に…
事件番号: 昭和26(あ)4311 / 裁判年月日: 昭和27年4月8日 / 結論: 棄却
論旨は、原判決が、被告人らは「不良の徒として同町民より恐れられ」ていたと判示している点を捉え、かかる伝聞証言に基いて事実認定をしたことは、判決に影響を及ぼすべき法令違反があるというのであるが、記録について、原判決の挙げている各証人の供述を委しく調べて見ると、むしろ被害者としてそれぞれの体験を述べているのであつて、具体的…
事件番号: 昭和38(あ)1208 / 裁判年月日: 昭和40年2月23日 / 結論: 棄却
いやしくも被告人が団体または多衆の威力を示して、刑法第二二二条の脅迫罪を犯した以上、たとえ、その団体または多衆が合法的な集団であつても、なお、暴力行為等処罰ニ関スル法律第一条第一項の適用を免れない(昭和二四年(れ)第一六二二号同二八年六月一七日大法廷判決、刑集七巻六号一二八九頁参照)。