一 日本共産党員である被告人等が、町長選挙に際し、候補者(A)が前日居宅に火焔瓶投擲を受けて畏怖しつつあるのに乗じ、共同して同人を非難脅迫するビラを町内に撒布し同人を選挙において不利に陥れるとともに同人に右ビラを閲覧させてこれを脅迫すべきことを共謀し翌七月一二日共同して同町内で多人数に対し「天誅遂に下る。天人共に許さざる売国奴Aに町民の怒り爆発」と題し、「七月一一日おさえにおさえた町民の怒りは爆発した、過去四年間横暴の限りをつくし、町民の苦しみの上に私腹を肥した現町長Aの自宅は英雄的な町民により襲撃された、これはAをとりまく売国奴共へ愛国的町民が叩きつけたたたかいの宣言である。彼ら売国奴共が自己の行為を反省してくいあらためぬ限り、追撃の手は更にのびるであろう」との文言の記録があるガリ版ビラ約四〇〇枚を頒布して同人に多数第三者を通じ、うち約三〇枚を閲読させた所為は暴力行為等処罰に関する法律第一条第一項に該当する 二 脅迫は、公共の福祉を害し憲法の保障する言論、表現の自由の限界を逸脱する
一 暴力行為等処罰に関する法律第一条第一項(脅迫)にあたる事例 二 脅迫と憲法第二一条
暴力行為等処罰ニ関スル法律1条1項,刑法222条,憲法21条
判旨
憲法21条が保障する表現の自由といえども公共の福祉による制限を免れず、他人の生命・身体等に害を加える旨を告知する「脅迫」は同条の保障の限界を逸脱する。数人共同して脅迫を行う行為を暴力行為等処罰法1条1項により処罰することは、憲法21条に違反しない。
問題の所在(論点)
数人共同して脅迫的文言を含むビラを配布し、特定の個人を脅迫する行為を暴力行為等処罰法により処罰することが、憲法21条1項の保障する表現の自由を侵害し違憲とならないか。
規範
憲法21条1項の保障する表現の自由は無制約なものではなく、常に公共の福祉によって調整されるべきものである。他人の生命、身体、自由、名誉または財産に対し害を加えるべきことを通告する「脅迫」は、公共の福祉を害し、憲法の保障する言論・表現の自由の限界を逸脱する非社会的なものである。したがって、かかる行為を犯罪として処罰することは憲法21条に違反しない。
事件番号: 昭和27(あ)4864 / 裁判年月日: 昭和29年6月8日 / 結論: 棄却
昭和二六年四月当時佐賀県a町大字b字c駐在所勤務の巡査に対し同駐在所附近で「売国奴の番犬、A巡査をたたき出せ」と題し、「……たしかに、Aは売国奴の番犬だ!我々愛国者人民は近き将来に必ず勝利するのだ、かかる売国奴とその手先どもの行為は、来るべきあの有名な人民裁判によつて明らかにサバカレ処断されるであろう……」と書いた謄写…
重要事実
日本共産党員である被告人らは、町長選挙に際し、候補者Aの当選を阻止する目的で、Aの居宅に火焔瓶が投げ込まれた事件に乗じ、「売国奴Aに町民の怒り爆発」「追撃の手は更にのびるであろう」等と記載したビラ約400枚を配布した。被告人らは共同して、火焔瓶投擲を受けて恐怖に陥っていたAに対し、当該ビラを閲覧させて脅迫することを共謀し、実際にAに約30枚を閲読させた。
あてはめ
被告人らの行為は、表面上は選挙の際の政治的文書の配布という側面を有する。しかし、実態は、被害者が前日の火焔瓶投擲により畏怖している状況を悪用し、さらなる襲撃を示唆して脅迫する意図に基づくものである。このような脅迫的通告は、単なる政策批判や失政攻撃の域を著しく逸脱しており、公共の福祉に反する表現であるといえる。したがって、当該表現行為は表現の自由の保障の限界を超えたものと解される。
結論
被告人らの所為を暴力行為等処罰法1条1項(共同脅迫)に該当するものとして処罰した原判決は、憲法21条に違反しない。
実務上の射程
表現の自由が主張される事案であっても、それが実質的に「脅迫」に該当する場合には、公共の福祉による制約が肯定され、保障の限界外として処罰が可能であることを示す。答案上は、表現の自由の制約を論ずる際、内容が純粋な意見表明を超えて他人の権利を侵害する害悪の告知に至っている場合の限界事例として引用できる。
事件番号: 昭和35(あ)397 / 裁判年月日: 昭和37年12月25日 / 結論: 棄却
一 暴力行為等処罰に関する法律第一条第一項は、憲法第二一条に違反しない。 二 刑訴第四〇五条第二号または第三号にいう判例と相反する判断とは、法令の解釈適用について控訴審判決が何らかの判断をした場合においてその法律的判断が判例上の法律的判断と相反する場合をいう。
事件番号: 昭和38(あ)1208 / 裁判年月日: 昭和40年2月23日 / 結論: 棄却
いやしくも被告人が団体または多衆の威力を示して、刑法第二二二条の脅迫罪を犯した以上、たとえ、その団体または多衆が合法的な集団であつても、なお、暴力行為等処罰ニ関スル法律第一条第一項の適用を免れない(昭和二四年(れ)第一六二二号同二八年六月一七日大法廷判決、刑集七巻六号一二八九頁参照)。
事件番号: 昭和27(あ)3673 / 裁判年月日: 昭和28年12月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法21条1項が保障する表現の自由であっても、それ自体が犯罪を構成するような言動については、同条による保障の範囲内にない。 第1 事案の概要:被告人は特定の言動(犯罪を構成すると判断された具体的な行為内容は本判決文からは不明)に及び、第一審および控訴審で有罪判決を受けた。これに対し、被告人側が、当…
事件番号: 昭和31(あ)2722 / 裁判年月日: 昭和34年5月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】警察官が犯罪の予防及び制止のために行う警戒活動は、集団示威運動等によって生命・財産等に危害を及ぼす犯罪が発生するおそれがある場合には、根拠となる条例の合憲性を問わず、警察官職務執行法5条等に基づき適法な職務執行となる。 第1 事案の概要:被告人ら約200名の者が集団示威運動を行っていた。これに対し…