教唆犯の成立には、ただ漠然と特定しない犯罪を惹起せしめるに過ぎないような行為だけでは足りないけれども、いやしくも一定の犯罪を実行する決意を相手方に生ぜしめるものであれば足りるものであつて、これを生ぜしめる手段、方法が指示たると指揮たると、命令たると嘱託たると、誘導たると從慂たるとその他の方法たるとを問うものではない。
教唆犯の成立と教唆の手段
刑法61条
判旨
教唆犯の成立には、漠然と特定しない犯罪を惹起させる行為では足りないが、一定の犯罪を実行する決意を生じさせるものであれば、その手段・方法は問わない。犯罪行為の予知があり、かつその処分を慫慂して実行の決意を生じさせた場合は、特定された犯罪の教唆にあたる。
問題の所在(論点)
教唆犯の成立要件として、教唆行為の内容がどの程度特定されている必要があるか。また、単なる「慫慂」が教唆にあたるか。
規範
教唆犯(刑法61条1項)が成立するためには、正犯者に対して「一定の犯罪」を実行する決意を生じさせることが必要である。その手段や方法は、指示、指揮、命令、嘱託、誘導、慫慂(しょうよう)など、どのような態様であっても問わない。ただし、単に漠然としていて特定されない犯罪を惹起させるだけでは足りない。
重要事実
被告人は、農業会が保管していた蔵置肥料について、配給及び価格統制に違反して売却されることを予知していた。その上で、当該肥料の処分を慫慂(すすめ誘うこと)し、相手方に違反販売を実行する決意を生じさせた。
事件番号: 昭和25(れ)1237 / 裁判年月日: 昭和26年2月23日 / 結論: 棄却
原判決が本件公訴事実につき無罪の言渡をした理由は有限責任A縣勤労者生活協同購買利用組合連合会(略称生協連)は消費者が生活必需物資を自己のため協同購入し之を自己のため配分する団体であり、団体員以外の者に転売して利を営むことを目的とするものにあらざるは勿論被告人両名も亦右団体の役員としてその事務に従事し報酬として給料を受く…
あてはめ
被告人の行為は、特定の農業会が保管する肥料を、特定の統制に違反して販売するという「一定の犯罪」を対象としている。被告人はこの違反販売を予知しながら、処分を積極的に勧める「慫慂」という方法により、相手方に実行の決意を生じさせている。これは単なる漠然とした犯罪の惹起ではなく、特定された犯罪行為の実行を促したものと評価できる。
結論
教唆犯が成立する。特定の犯罪行為の実行を決意させた以上、その手段が慫慂であっても教唆としての欠格はない。
実務上の射程
教唆の手段が限定されないことを示した重要判例。答案では、教唆の実行正犯に対する働きかけが「指示」のような明確な形式をとっていなくても、本件の「慫慂」のように、相手方に実行の決意を生じさせるに足りる具体的・実質的な働きかけがあれば、教唆の成立を肯定する根拠として活用できる。
事件番号: 昭和26(れ)1226 / 裁判年月日: 昭和26年10月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法190条の死体遺棄罪は、死体それ自体を放棄することのみならず、死体を隠匿・放置する等によって社会的な葬祭の礼俗を害する行為を包含する。死体を現に占有・管理していない者であっても、作為・不作為を問わず当該行為に関与した場合には、同罪が成立し得る。 第1 事案の概要:被告人両名は、共謀の上、殺害さ…
事件番号: 昭和26(れ)1787 / 裁判年月日: 昭和26年12月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】有罪判決において罪となるべき事実を認めた理由を説明する際、証拠の標目及び法令を掲げることで足りるとする昭和25年最高裁判所規則第30号第8条の規定は適法であり、憲法に違反しない。 第1 事案の概要:被告人らは、原審の判決において、有罪の理由説明が証拠の標目及び法令の掲記のみで行われたことについて、…
事件番号: 昭和26(れ)2276 / 裁判年月日: 昭和27年3月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】共謀による恐喝の実行中、その意図を察して加担した者が脅迫行為を行い、当初からの共謀者による脅迫と相俟って被害者を畏怖させ財物を交付させた場合、共謀加担者を含む全員について恐喝罪の既遂が成立する。 第1 事案の概要:被告人はA、Bらと共謀し、Cを脅迫して金員を喝取しようと考え、Cに対し脅し文句を並べ…