刑法第一七五条にいわゆる「猥褻」とは、徒らに性慾を興奮又は刺戟せしめ且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう。
猥褻の意義
刑法175条
判旨
刑法175条にいう「わいせつ」な文書とは、徒らに性欲を興奮又は刺激させ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう。
問題の所在(論点)
男女の性交、陰部の表現、死体姦淫や変態的性交等を詳述した記事を掲載した新聞を販売する行為が、刑法175条のわいせつ物頒布罪(販売)に該当するか。特に「わいせつ」の定義が問題となる。
規範
刑法175条の「わいせつ」な文書とは、①徒らに性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ、②普通人の正常な性的羞恥心を害し、③善良な性的道義観念に反するものをいう。
重要事実
被告人は、以下の内容を含む新聞各1万2000部を販売した。(1)「好色話の泉」と題し、男女の性交及び陰部を表現した戯文等の記事、(2)「其の夜我慾情す」と題し死女を姦淫する光景を記述した記事、(3)「変態女の秘戲」と題し変態的な性交を詳述した記事、(4)「処女の門、十七の犀ひらかる」と題し男女性交の光景を記述した記事。
事件番号: 昭和46(あ)1666 / 裁判年月日: 昭和46年12月23日 / 結論: 棄却
わいせつ文書等の頒布等を禁止した刑法一七五条は、憲法一三条に違反しない。
あてはめ
本件各記事は、男女の性交や陰部の表現のみならず、死体姦淫や変態的性交といった内容を露骨かつ詳細に記述するものである。これらは読者の性欲を不当に刺激するものであり(①充足)、普通人が有する性的な恥じらいの感情を著しく害するといえる(②充足)。また、このような露骨な性的描写を多数頒布することは、社会一般の健全な性的道義観念にも明らかに反するものと認められる(③充足)。したがって、本件記事を掲載した新聞は「わいせつな文書」に該当する。
結論
被告人の行為は、刑法175条所定のわいせつ文書販売罪に該当する。上告棄却。
実務上の射程
わいせつ概念に関する「三要素(性的刺激・羞恥心侵害・道義観念反抗)」を確定させたリーディングケースである。答案上は、この三要素を定義として明示した上で、描写の具体性や露骨さといった事実を拾ってあてはめる際のスタンダードとして用いる。
事件番号: 昭和46(あ)1905 / 裁判年月日: 昭和48年4月12日 / 結論: 棄却
一 猥褻文書の販売を処罰することは、憲法二一条に違反しない。 二 文書の猥褻性の有無は、その文書自体について客観的に判断すべきものであり、現実の購読層の状況あるいは業者や出版者としての著述、出版意図など当該文書外に存する事実関係は、文書の猥褻性の判断の基準外に置かれるべきものである。このように解しても、憲法二一条に違反…
事件番号: 昭和41(あ)1205 / 裁判年月日: 昭和42年10月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法175条にいう「わいせつ」な文書とは、徒らに性欲を興奮又は刺激させ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう。文書の内容が性行為の叙述に終始し、表現の具体性や露骨性の程度にかかわらず、右要件を充足する場合にはわいせつ文書に該当する。 第1 事案の概要:被告人が…
事件番号: 昭和57(あ)165 / 裁判年月日: 昭和59年12月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法175条の「わいせつ」概念は罪刑法定主義に反せず、同条による処罰は表現の自由等を保障する憲法21条、19条、31条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人が、刑法175条に基づきわいせつ文書の出版等の罪に問われた事案。弁護人は、同条が読書の自由(憲法21条)や思想の自由(同19条)を侵害し、適…