一 猥褻文書の販売を処罰することは、憲法二一条に違反しない。 二 文書の猥褻性の有無は、その文書自体について客観的に判断すべきものであり、現実の購読層の状況あるいは業者や出版者としての著述、出版意図など当該文書外に存する事実関係は、文書の猥褻性の判断の基準外に置かれるべきものである。このように解しても、憲法二一条に違反しない。
一、猥褻文書の販売を処罰することと憲法二一条 二、文書の猥褻性の有無はその文書自体について客観的に判断すべきか
刑法175条,憲法21条
判旨
刑法175条の「わいせつ」性の判断は、文書それ自体について客観的に判断すべきであり、著者の出版意図や購読層の状況といった外部的事実によって左右されない。
問題の所在(論点)
刑法175条にいう「わいせつ」性の判断において、著者の主観的な意図や出版目的、現実の購読層の状況といった文書外の事情を考慮すべきか。また、かかる判断基準を採ることは憲法21条に違反しないか。
規範
文書のわいせつ性の有無は、その文書自体について客観的に判断すべきものである。したがって、著者の主観的な著述意図、出版者の出版目的、あるいは現実の購読層の状況といった、当該文書外に存在する諸事実は、わいせつ性の判断基準に含めるべきではない。
重要事実
被告人らは、「艶本研究国貞」特製本の本冊および別冊参考資料を出版・販売した。原審は、これらを一個の文書として捉えた上で、その内容自体から客観的にわいせつ性を認め、刑法175条(わいせつ物頒布罪等)を適用した。これに対し被告人側は、学術的な研究意図や実際の読者層を考慮すべきであり、処罰は憲法21条に反すると主張して上告した。
事件番号: 昭和41(あ)1205 / 裁判年月日: 昭和42年10月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法175条にいう「わいせつ」な文書とは、徒らに性欲を興奮又は刺激させ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう。文書の内容が性行為の叙述に終始し、表現の具体性や露骨性の程度にかかわらず、右要件を充足する場合にはわいせつ文書に該当する。 第1 事案の概要:被告人が…
あてはめ
本件文書について、本冊と別冊を一体として検討すると、その内容は客観的にみてわいせつな文書に該当すると認められる。被告人側は出版の目的が研究にあることや購読者の属性を考慮すべきと主張するが、わいせつ性は文書そのものが持つ客観的な属性によって定まるものである。したがって、出版意図や購読層という文書外の事実を排除して判断した原審の態様は正当であり、確立された判例(チャタレイ事件判決等)の趣旨に照らしても妥当である。
結論
本件文書はわいせつ物に該当し、被告人らを刑法175条に基づき処罰することは、憲法21条に違反しない。
実務上の射程
わいせつ性の判断において「文書の客観性」を強調する伝統的な法理を再確認したものである。答案上は、わいせつ性の定義(性的羞恥心を害し、善良な性的道徳観念に反するもの)を述べた後、主観的意図や社会的価値(芸術性・学術性)が「わいせつ性そのもの」を直ちに否定するわけではないことを論述する際の根拠として用いる。
事件番号: 昭和57(あ)165 / 裁判年月日: 昭和59年12月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法175条の「わいせつ」概念は罪刑法定主義に反せず、同条による処罰は表現の自由等を保障する憲法21条、19条、31条に違反しない。 第1 事案の概要:被告人が、刑法175条に基づきわいせつ文書の出版等の罪に問われた事案。弁護人は、同条が読書の自由(憲法21条)や思想の自由(同19条)を侵害し、適…
事件番号: 昭和48(あ)2593 / 裁判年月日: 昭和49年4月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法21条1項が保障する表現の自由は絶対無制限ではなく、性生活の秩序や健全な風俗の維持という公共の福祉による制限を受けるため、刑法175条のわいせつ物頒布罪等の規定は合憲である。 第1 事案の概要:被告人が、3人1組の性戯や性交の場面等を、性器の形状や動き、行為者の言動などについて具体的、詳細かつ…
事件番号: 昭和58(あ)1546 / 裁判年月日: 昭和59年9月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】刑法175条のわいせつ物頒布等の規定は、憲法13条、21条、31条に違反せず、また、他人の権利侵害や未成年者への配慮を欠く場合に限定して解釈しなくとも合憲である。 第1 事案の概要:被告人が刑法175条の罪に問われた事案において、被告人および弁護人は、同条が個人の幸福追求権(憲法13条)や表現の自…