上告の申立の理由があるかないかということ及びその理由のないことが明かであるかどうかということは、憲法及び法律に則り上告裁判所がその良心に従い独立して判断すべきところに委ねられている事柄である。しかるに、本件忌避の申立は、自己の上告の理由あることを独断して当裁判所を構成する裁判官全員に不公平の裁判をする虞ありとするものであつて、他に何らの理由をも示していない。されば本件申立は、もつぱら訴訟を遅延させる目的を以つてなされたものと解するの外はない。
刑訴法第四〇八条にあたるとして判決言渡期日を指定したことに対する忌避申立と刑訴法第二四条
刑訴法21条,刑訴法24条,刑訴法408条
判旨
裁判官全員に対する忌避申立てが、自己の上告理由の正当性を独断し、他に何ら客観的な理由を示さないものである場合、専ら訴訟を遅延させる目的でなされたものとして却下される。
問題の所在(論点)
裁判官全員に対する忌避の申立てが、具体的な根拠を示さずになされた場合、刑事訴訟法24条の申立てとしてどのように評価されるか。
規範
裁判官が不公平な裁判をするおそれがあるとする忌避の申立て(刑事訴訟法21条)であっても、客観的な根拠を欠き、専ら訴訟を遅延させる目的をもってなされたものと認められる場合には、不適法として却下される(同法24条)。
重要事実
上告申立人が、最高裁判所第二小法廷を構成する裁判官全員に対し、忌避の申立てを行った。その理由は、自己の上告には正当な理由があるはずであると独断した上で、裁判官らが不公平な裁判をするおそれがあるという抽象的な主張に終始し、具体的な根拠は示されていなかった。
あてはめ
本件申立ては、上告裁判所が憲法及び法律に基づき独立して判断すべき事項について、申立人が自己の主張が正しいことを前提として、不公平な裁判がなされると独断しているに過ぎない。他に何ら具体的な理由が示されていない以上、本件申立ては実質的な忌避理由を欠いており、その態様からして「専ら訴訟を遅延させる目的を以つてなされたもの」と解するのが相当である。
結論
本件忌避申立ては、訴訟遅延を目的とする不適法な申立てであり、刑訴法24条に基づき却下される。
実務上の射程
裁判官全員を対象とする「一括忌避」や、客観的根拠のない主観的な不信感に基づく忌避申立てが、訴訟遅延目的(濫用的な申立て)として簡易却下の対象となることを示した。答案上では、忌避権の濫用を論じる際のリーディングケースとして利用できる。
事件番号: 昭和52(す)64 / 裁判年月日: 昭和52年4月8日 / 結論: 却下
【結論(判旨の要点)】裁判所の審理手続に対する不服のみを理由とする忌避の申立ては、訴訟を遅延させる目的のみでされたことが明らかであるとして、刑訴法24条に基づき却下される。 第1 事案の概要:公務執行妨害被告事件の上告審において、申立人が担当裁判所である最高裁判所第三小法廷の裁判官全員を忌避する旨の申立てを行った。当該…
事件番号: 昭和26(ク)10 / 裁判年月日: 昭和26年5月24日 / 結論: 却下
【結論(判旨の要点)】最高裁判所が民事事件の抗告について裁判権を有するのは、法律により特に許された場合に限られ、その抗告理由は原決定における憲法判断の不当性に限定される。 第1 事案の概要:抗告人が最高裁判所に対して抗告を申し立てた事案。抗告人が主張した抗告理由は、原決定において法律、命令、規則又は処分が憲法に適合する…